用語解説

インストラクショナルデザインとは?
求められる背景や代表的理論を解説!

「自分のやっている研修はこれで良いか自信がない」
「研修の評価をどのようにしたらよいか悩んでいる」
「研修で学んだ内容が日常業務に活かされにくい」

 

こんなお悩みの解決に役立つのが「インストラクショナルデザイン」です。効果的・効率的・魅力的な学びのプロセスをどのように作り上げていくかを体系的に考えるこの手法は、教育現場に限らず、企業内教育でも注目され、教育部門における「OS(Operating System」として導入される企業が増えています。本記事では、このインストラクショナルデザインの基礎をわかりやすく解説します。

インストラクショナルデザインとは何か~定義と求められる背景~

近年、企業内の研修設計に「インストラクショナルデザイン」を導入・活用するケースが増えています。
その定義と求められるようになった歴史的背景をお伝えします。

■インストラクショナルデザインの定義

インストラクショナルデザインとは、学習者の理解を深め、成果を最大化するために、教育や研修を科学的に設計する手法です。単に教材を作るだけではなく、学習プロセス全体をデザインすることで、 効果的(学習成果を高める)・効率的(短時間で最大の学習効果)・魅力的(学習意欲を引き出す) な教育を実現します。

研修を担当する方々にとっては、研修を設計するためのOS(基盤)と考えることができるでしょう。

 

■インストラクショナルデザインが求められる背景

歴史的誕生と日本での広がり

インストラクショナルデザインは、第二次世界大戦中に米軍の人材育成を効率化するために生まれました。その後、欧米では教育設計の基本的な考え方として発展し、専門職「インストラクショナルデザイナー(IDer)」も登場しました。

一方、日本では1970年代から学習設計の研究が進められていましたが、教育現場では「勘と経験と度胸(KKD)」に頼るケースが多く、普及は限定的でした。しかし、 2000年以降のeラーニングの普及 により、科学的な研修設計の必要性が高まり、インストラクショナルデザインが注目されるようになりました。さらに、コロナ禍による オンライン研修の増加 も、この流れを加速させました。

研修の成果を求められるように~人的資本経営の高まり~

かつて、日本では研修が「コスト」として捉えられることが多く、成果が十分に評価されないことがありました。しかし、 人的資本経営 の重要性が高まる中で、研修は「投資」として位置づけられ、成果が求められるようになりました。その背景には、モノを言う株主や、欧米の資本が入ることで、欧米では当たり前に論じられていた、教育研修の成果分析を問われる機会が増えたことがあります。

インストラクショナルデザインでは、教育の成果をカークパトリックの4段階評価モデルを活用し、受講満足度、学習目標の達成度、行動変容の達成度、ビジネス目標の達成度を測定できるように事前にデザインするため、成果確認、効果測定という観点でも注目が集まっています

また、人的資本の重要性が強調される中で、企業が持続的に成長するための従業員のスキルアップという観点からも、効果的な学習設計がますます求められています。特に、個々の学習者のニーズに応じたパーソナライズされた学習や、デジタル教材を活用した研修が普及していますが、インストラクショナルデザインを活用して、最適な学びをデザインしようとする組織が増えています

 

研修後の行動変容を求められるように~研修は目的ではなく手段~

従来の研修部門では研修を実施することが目的となっているケースがしばしば見受けられましたが、近年は、研修後の行動変容がどうなったのかを求められるようになりました。これは、前項で述べた背景に伴い、研修の目的がより明確化されたためです。

研修後に行動変容を起こすためには、研修の設計段階で、研修後に行動変容に至らせるための設計が必要になります。
研修後は、それぞれの職場・現場での実践になりますが、そこを現場任せにするのではなく、研修部門が職場学習(ワークプレイスラーニング)のデザインをし、現場と事前に交渉しておくことが重要です

 

インストラクショナルデザインでできること

インストラクショナルデザインを活用することで、具体的にどのような研修を提供できるようになるのでしょうか?
ここでは、研修の効果・効率・魅力という3つの観点で、そのメリットをお伝えします。

効果的な研修の提供

教育における「効果的」とは次のようなことになります。

  • 受講生の実力がつく
  • 期待に応えるだけの卒業生(修了生)が輩出できる。
  • 自信を持って単位を出せる

これらを可能にするために、インストラクショナルデザインでは研修の出入口を明確化します。
出口とは研修後に到達するゴールを指し、入口とは研修前の受講者の状況を指します。
受講生にとって、何がどれくらいのレベルでできるようになれば良いのかと(出口)を決めて、現状はどのレベルにあるのか(入口)を確認します。そして、出口と入口のギャップをどのように到達させるのかを設計するのです。

 

効率的な研修の提供

教育における「効率的」とは次のようなことになります。

  • 受講者も教育者も省エネ
  • これまでの投資が活用できる(例:教材の再利用)
  • 短時間で、無駄なく

例えば、新卒社員とベテラン社員では学習方法が異なります。インストラクショナルデザインでは 学習者に最適な学び方を選択できるため、無駄のない研修 を設計できます。
インストラクショナルデザインの理論では様々な方法論が示されているので、それらの理論を理解して適切に活用することで、効率的な研修が設計できるようになります。

 

魅力的な研修の提供

教育における「魅力的」とは次のようなことになります。

  • 楽しい授業、成長の実感
  • 考えることが楽しい
  • さらに勉強したいと思うようになる(継続動機)

見落としがちですが、受講者のモチベーションに影響する大切な視点です。
この点においても、インストラクショナルデザインでは学習者が楽しく学ぶための理論が存在するため、それらの理論を理解して適切に活用することで魅力的な研修設計の工夫が可能です。

インストラクショナルデザインの代表的な理論

インストラクショナルデザインには、効果的・効率的・魅力的な教育・研修設計を可能にするための様々な理論があります。
ここでは、実際の設計に役立つ代表的な理論を紹介します。

研修の全体像を設計するプロセスモデル「ADDIEモデル」

ADDIEとは、分析(Analysis)・設計(Design)・開発(Development)・実施(Implementation)・評価(Evaluation)の頭文字をとったものです。教育のPDCAと呼ばれる通り、この5つのフェーズを回しながら、より良い成果を出していくということを求めています。

ADDIE

実践のヒント【実践のヒント!】いきなりPPTやワークシートの作成から始めていませんか?分析や設計のフェーズは見落としがちですが、研修設計は分析と設計が肝になりますので、いつもコンテンツの開発からしている場合には、分析&設計から始めてみましょう。

※ADDIEモデルについて、より詳しく知りたい方はこちらも参照ください。

 

ゴールと評価設計に役立つ「カークパトリックの4段階評価モデル」

研修や教育プログラムの効果を測定するためのフレームワークです。研修評価の際の視点を4つのレベルに分けて「評価内容」と「評価手法」を考えます。

カークパトリックの4段階評価

 

実践のヒント【実践のヒント!】研修の効果測定を検討中の方は、まずはレベル1の「満足度評価」とレベル2の「学習到達度評価」から導入してみましょう。レベル1評価で受講生の満足度把握をすることは、講師や教材の質も含まれると思いますので研修の改善にも役立ちます。

※カークパトリックの4段階評価モデルについて、より詳しく知りたい方はこちらも参照ください。

 

以降は、研修のレッスンプランやアジェンダ設計に役立つ5つの理論をご紹介します。

設計のベースとなる考え方「大人の学び(アダルトラーニング)」

大人には大人のための学び、「アダルトラーニング」という考え方があります。子どもの学び「ペタゴジー」と大人の学び「アンドラゴジー(アダルトラーニング)」の違いを理解しておきましょう。

アダルトラーニング

 

実践のヒント【実践のヒント!】私たちは、学校教育の影響を強く受けながら成長してきました。そのため、教育担当者も 子ども向けの学習(ペタゴジー) を前提とした指導方法になりがちです。しかし、企業研修では 「大人の学び=アダルトラーニング」 という視点が求められます。大人は 自分の経験や課題に基づいて学ぶ傾向が強く、より実践的な学びを求める ため、従来の「一方的な教え込み」ではなく、 自律的に学べる仕組み を設計することが重要です。

※アダルトラーニングについて、より詳しく知りたい方はこちらも参照ください。

 

効果的×基礎的な学びの設計に役立つ「ガニェの9教授事象」

ガニェの9教授事象は、ロバート・ガニエが提唱したモデルで、学習プロセスを9つのステップに分け、 学習者が基礎的な知識やスキルを効果的に習得するための体系的なアプローチ です。

ガニェの9教授事象

 

実践のヒント【実践のヒント!】講義やeラーニングコンテンツには9つの働きかけが入っていますか?ガニエの9教授事象を活用することで、 単なる知識のインプットだけでなく、アウトプットの機会を取り入れることで記憶の定着を促進します。既存の研修をガニェの9教授事象に沿って分析してみると、改善のポイントが見えてくるかもしれません!

※ガニェの9教授事象について、より詳しく知りたい方はこちらも参照ください。

 

魅力的な学びの設計に役立る「ARCSモデル」

ARCSモデルは、受講者の高い学習意欲を引き出し、継続的に学ばせるためのアプローチを研究した結果、4つのシンプルなやり方で、学習意欲が飛躍的に高まることを実証したモデルです。

ARCS

 

実践のヒント【実践のヒント!】「やる気がない受講生だ」とあきらめるのではなく、このARCSの4つの側面から考えて、学習意欲を高められる方法がないか考えてみましょう。例えば、研修の進行スライドを作り終えた時に受講者の気持ちになって、A・R・C・Sのそれぞれの観点で過不足がないかチェックしてみましょう!

※ARCSモデルについて、より詳しく知りたい方はこちらも参照ください。

 

効果的×実践的な学びの設計に役立つ「メリルのID第一原理」

メリルのID第一原理は、M・デイビッド・メリルによって提唱された理論です。効果的な学習を実現するための5つの基本原則を示し、実践的で応用可能な学習環境を設計するためのフレームワークです。大人の学びの設計に最もおススメの理論です。

メリルのID第一原理

 

実践のヒント【実践のヒント!】大人は自分の業務に直結した課題解決型の学びに強い関心を示すものです。そのため、理屈よりもケーススタディなどで解決方法を紹介すると、より学ぶ意欲がわいてくるのです。
熟達度の高い大人向けの研修設計に役立つ理論ではありますが、新人研修をデザインする際でも、基礎的な知識のインプットをする導入部分については、ガニエの9教授事象を使ってデザインし、現場配属に向けて後半は徐々に、メリルのID第一原理を使ったデザインを組み込み、配属後に待ち受けている現実的な課題を提示して学ばせるといったブレンドができると良いでしょう。

※メリルのID第一原理について、より詳しく知りたい方はこちらも参照ください。

 

実践の振り返りに役立つ「経験学習モデル」

経験学習モデルは、デービッド・コルブが提唱した「経験から学習していくには、4つの活動を繰り返す必要がある」と考えるモデルです。

経験学習

 

実践のヒント【実践のヒント!】いわゆるハイパフォーマーは自分で経験学習モデルを回していると考えられます。1人ではうまく回せない場合の手助けとして行われているのが1on1ではないでしょうか。また、普段現場で後回しにしてしまいがちなリフレクションの場を用意できるのが研修です。研修では振り返る場を与え、概念化の支援を行うと良いでしょう。

※経験学習モデルについて、より詳しく知りたい方はこちらも参照ください。

まとめ

本記事では、インストラクショナルデザインの基本概念や、活用することによって期待できることなどを解説してきました。

企業の教育・研修に携わる方々にとって、インストラクショナルデザインの考え方を取り入れることは、より戦略的で実践的な研修設計を可能にします。ご紹介した代表的理論と活用のヒントも参考にしながら、インストラクショナルデザインを学び、実践していきましょう。


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