イベントレポート

ANAの訓練・研修から学ぶインストラクショナルデザインの活用

研修の効果・効率・魅力を高めるためのシステム的なアプローチとして、インストラクショナルデザインの導入が多くの企業で進んでいます。実際にどのように活用され、どのような成果が生みだせるのでしょうか?

本記事では、全日本空輸株式会社(ANA)様の整備士・客室乗務員・パイロット向けの訓練・研修におけるIDの活用事例をご紹介します。

各職種の特性や研修テーマに応じた設計の工夫、実践の中で見えてきた課題、そして組織全体でのIDを共通言語化するための取り組みに迫ります。

※インストラクショナルデザインを本文中では「ID」と一部表記する場合があります。

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全日本空輸株式会社(ANA)様イベントの実施背景と概要

ANA人財大学のイベント

2024年、ANA人財大学が主催する「人づくり」イベントの一環として、インストラクショナルデザインに関する学びの場が設けられました。
ANAグループの総合トレーニングセンターであるANA Blue Baseにて、各職種における教育・訓練の質向上を目的に、インストラクショナルデザインの活用事例が共有されました。

ANA様では数年前から乗員(以下パイロット)部門の方が弊社のビジネスID講座を受講され、2024年度から客室、整備部門の方もご受講され、約100名の方がビジネスID expert認定を受け、訓練設計・実施をされています。

インストラクショナルデザインを導入した成果を感じ、他部門や専門職以外の職種の方にもインストラクショナルデザインを展開していきたいという背景があり、プログラム実施に至りました。

本イベントでは、ビジネスID expert認定を受けられた3名様の訓練におけるIDの実践事例をご紹介頂き、弊社サンライトヒューマンTDMC株式会社 代表取締役社長・森田晃子がゲストアドバイザーとして招かれ、インストラクショナルデザインの基本概念と効果的な活用方法について講演を行いました。

※ビジネスID講座:サンライトヒューマンTDMC(株)が提供している企業の教育・研修にインストラクショナルデザイン理論を実践的に活用する方法を学べるオープン講座。プログラムを修了し、基準を満たした方には「ビジネスID expert」の認定が授与される。2018年6月より業界特化型の「ビジネスID講座《航空業界編》」を開講。

 

IDを学ぶプログラムの概要

【プログラム名】
インストラクショナルデザイン理論 人づくりの考え方~ID理論での学びと現在の教育~

【会場】
ANA Blue Base/オンラインのハイブリッド開催

【登壇者】
ANA 整備センター 教育訓練部専門訓練チーム
幡原 弘明さま(ビジネスID expert認定)

ANA 客室センター 客室訓練部訓練企画課
小口 香織さま(ビジネスID expert認定)

ANA FOC 品質企画部 CBTAチーム
内藤 雅士さま(ビジネスID expert認定)

 

当日は専門職の教官やトレーナー職の方に加えて、スタッフ職の育成に関わる方や各組織のマネジャー職の方など、対面とオンライン合わせると130名超の方にご参加いただきました。

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森田によるインストラクショナルデザイン ミニ講座

イベントは、弊社森田による「インストラクショナルデザイン ミニ講座」から始まり、以下のような代表的な理論をご紹介させていただきました。

  • インストラクショナルデザインとは
  • 現状の入口分析と3つのゴール
  • 教育のPDCAモデル(ADDIEモデル)
  • 訓練・研修設計にお勧めのフレームワーク(ガニェの9教授事象/メリルの第一原理/経験学習モデル)

また、航空業界で導入が勧められているCBTAプログラムとインストラクショナルデザインの関係性についても言及し、CBTAプログラムの導入にはインストラクショナルデザインの理解が不可欠である理由をご紹介いたしました。

※CBTAプログラム:コンピテンシー・ベースド・トレーニング&アセスメントプログラム。ヒューマンエラーを事故に繋げないための訓練・審査手法。2017年の国土交通省航空局の通達により、国内の航空会社では機長、副操縦士の教育訓練に同プログラムの導入が求められており、導入する際にはインストラクショナルデザインの活用が前提とされている。

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事例発表1|ANA整備士向け訓練におけるインストラクショナルデザインの活用

 

幡原 弘明氏(ANA 整備センター)

整備士の資格取得を支援する訓練設計にインストラクショナルデザインを活用。

  1. 最終ゴールから逆算し、5つのモジュールにわけ訓練の全体像を設計
  2. 各モジュールに適切なゴールと評価指標を明確化
  3. 教官中心の学びから、受講者中心の学びへ挑戦(アダルトラーニング)

結果として、受講者の理解度が向上し、学習のモチベーションも維持できた。

 

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事例発表2|ANA CA向け訓練におけるインストラクショナルデザインの活用

 

小口 香織氏(ANA 客室センター)

インストラクター資格取得訓練において、インストラクショナルデザインを活用。

  1. 対象者が目指すゴールと現状を丁寧に分析
  2. 反転学習を導入し、アウトプットの時間増
  3. 評価指標の統一(現場での評価基準を訓練に適用) を実施

結果として、訓練の一貫性が増し、習熟度向上が期待できる設計となった。

 

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事例発表3|ANAパイロット向け訓練におけるインストラクショナルデザインの活用

 

内藤 雅士氏(ANA フライトオペレーションセンター)

パイロットのシミュレーター訓練において、インストラクショナルデザインを活用。

  1. 小さなADDIEモデルの質向上が、大きなADDIEモデルを改善し事故防止につなげる
  2. 事前課題を導入し、知識の整理と訓練目標の明確化
  3. 訓練の振り返りでは、経験学習モデルを活用し実践

結果として、訓練に関わる教官がIDを理解し、誰でも効果的な振り返りが行えるようになり、訓練の再現性と効果を向上させた。

 

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全体総括~リフレクション~

プログラムを通じて、ANA様の各部門におけるインストラクショナルデザイン活用の重要性が再認識されました。
事例発表終了後に企画者、登壇者、弊社森田でパネルディスカッションを行い、これまでの成果として以下の点が挙げられました。

  • IDによる学習設計で、より効果的な研修を実現できる
  • 部門を超えた共通言語としてIDを活用することで、組織全体の教育水準が向上する
  • 分析→設計→開発→実施→評価(ADDIEモデル)を回すことで、継続的に訓練を改善し質の向上につなげる

最後に弊社森田より、特定の研修や訓練に留まらず、人財育成の基盤としてインストラクショナルデザインがインストールされていることがANA様の大きな強みであり、組織的なインストラクショナルデザイン活用による「人づくり」を通じて、ANA様がより美しい翼の王国になられていくとことを強く願っているというメッセージで締めさせていただきました。

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終わりに

弊社としても、ANA様の「人づくり」における取り組みに貢献できたことを大変光栄に思います。
今後も企業の教育・研修におけるインストラクショナルデザイン活用支援を通じて、人財育成の質の向上に寄与してまいります。


*本プログラムや各事例の詳細を知りたい方に、詳細版レポートをPDFでご用意しています。
    ご興味がある方は、下記よりダウンロードいただけます。

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