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イベントレポート
9月15日に「HRサミット 2021」が開催されました。ゲストに千葉工業大学情報科学部情報ネットワーク学科教授 仲林先生をお迎えして、弊社石津とともに教育工学の「実践」×「研究」の視点で「DX~HRX時代だからこそ必要な企業内の学びデザインとは?」をテーマにお話ししました。様々な変化が起こり続ける今だからこそ、あらためて必要な学びのデザインとして、「アウトプット発のデザインをする」という大原則と、2つのポイントである「実践と理論の往還」と「自己調整学習」の考え方についてご紹介しました。
最初に、なぜ「DX×本質」で学びをデザインする必要性があるのかについて、3つの視点からお伝えしました。
近年、求められる仕事の変化に伴い、お客様からのご相談内容にも変化がみられます。デジタルな環境やその中での業務に適応するための研修設計の相談が増えているのです。しかし、お客様とともに課題を突き詰めていくと、むしろ、はやりに左右されない本質的なスキルの育成が必要とされていることがわかります。
製薬企業でMRの教育に携わっているお客様からは、当初、営業活動のオンライン化に対応するための、これまでとは違う新しいスキルの育成についてご相談いただきました。コロナ禍で、ドクターとWEB面談を実施するようになったり、マルチメディアを活用する必要が出てきたりしたためです。しかし、環境が変化しても、社内のハイパフォーマーは、以前と同じように対話や問題提起ができていることがわかりました。本当に必要なのは、オンライン特有のスキルではなく、戦略立案や真の対話ができるスキルだったのです。そこで、思考・対話スキルを極めるための教育を行うことにしました。
製造技術者の教育を担当しているお客様からは、当初、工場のスマート化にあたり、新しい機器の使い方やデータ解析スキルの向上についてご相談いただきました。しかし、デジタル化に関する知識やスキルがそこまで高くなくても、円滑に業務にあたることができている工場もありました。本当に必要なのは、データ解析の結果を工場のメンバーに伝え、
私は、もとはIT系の研究者です。ITが業務の改善や効率化、ビジネスの創出につながるということは、半世紀前から繰り返しいわれています。そして、現在はDXという文脈で語られるようになりました。IT技術者は、テクニカルスキルは優れていますが、それを伝えることや、どのように会社の戦略に活かしていくのかというコンセプチュアルスキルに課題があると感じていました。、今、技術の進歩が加速したことで、同様のことが他の業界でも起きているのではないでしょうか? 例えば、事例2では、テクニカルスキルは素晴らしいけれど、コンセプチュアルスキルが足りていないことが浮き彫りになったといえそうです。
新たに求められるようになったデジタルスキルの習得も大切ですが、本質的なヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルを強化し続けなくてはいけないということですね。
また、学ぶ方法や環境が多様化しており、以前に比べて選択肢が増えました。
反面、選択肢が多いゆえに、「新しいツールを使って何かをしないと置いていかれてしまうのではないか」といった不安の声も耳にします。しかし、重要なことは、どのツールを使うかよりも、何を実現したいかという点です。目標を実現するために、どのツールをどう活用するのかという視点を持つことで、ツールの持っている潜在能力を最大限に活かすことができます。特に、見える化、共有化、つながり化といった点で可能性が広がっていますね。
SNSの活用事例もたくさん出てきています。Linuxというオープンソースのソフトウェアをご存知でしょうか? 今から30年ほど前の1990年代にリーナス・トーバルズという人が始めたプロジェクトです。彼は、このプロジェクトの中で、プログラムがうまく動かない時に、世界中に点在しているプログラミングが大好きな人たちがお互いに知恵を出し合って問題を解決する仕組みを作ったのです。オープンソースなのでお金は儲からないのに素晴らしいコミュニティができた。
これについて書かれた論文の中でのキーワードが「贈与の文化」です。お互いに与え合うという意味です。この贈与の文化は、コロナ禍で、組織が協働しながら問題解決をしなくてはいけないという状況にも当てはまります。そのためのインフラは整っていますので、お互いに与え合うことを目指していくといい形の学びができるのではないでしょうか。
「みんなでいいものを作りたい」という動機があって、それに向けて知恵をを出し合う。1つの理想形が既に30年前にあったということですね。そして、今はそれを実現する環境がより整っていると言えます。
一方で、業務のオンライン化に伴い、他者を見る機会、OJT、業務の幅・難易度が下がっているという点も挙げられます。影の面もしっかりと見て、成果を出すためにツールや環境の活用も考えていきたいですね。
さらに、企業内教育の担当部門が、経営層から明確な成果を求められるようになってきたという点も「DX×本質」で学びをデザインする必要性があると考えるきっかけになりました。実際に、お客様から「明確な成果を出すにはどうしたら良いでしょうか?」「成果を測るにはどうしたら良いでしょうか?」というご相談をいただく機会が増えています。
一方で、以前より、「工業社会の教育」から「情報社会の教育」への転換が必要であるといわれ続けています。指導者中心で時間基盤型の「工業社会の教育」から、学習者中心の達成度基盤型の「情報社会の教育」への転換は、必要だとわかっていても、なかなか難しいものです。
これまでは「工業社会の教育」でもなんとかなっていたかもしれませんが、経営層からの期待に応え、明確な成果を出していくためには、「情報社会の教育」へシフトが急務であるように感じています。企業内教育の設計や実施体制などから、根本的に見直す必要があるかもしれませんね。
※企業内教育パラダイム変化については、こちらのイベントでもお話しています。
「自ら学ぶ人材を育てたい」というお話もよく伺います。裏を返すと、「自ら学ばない大人が多い」ということかもしれません。企業内教育は、受講者の希望に一生懸命に応えようとして、結果的に与えすぎる教育になってしまっていることが多いように思います。与えられることに慣れると、自ら学ぶ意欲を失います。求められる業務、能力が変わり続ける中では、自ら学び対応し続ける人材をを育てていくことが、これまで以上に企業の競争力強化につながるでしょう。
私は10年ほど前から大学で教えているのですが、学生にも与えすぎていると感じます。高校ではストレートに大学進学、大学では4年間でスムーズに卒業して就職と、いかに失敗をさせずに次の段階に進めさせるか、という手厚いサポートをしています。中・高・大とそうした環境で育った学生が、そのまま企業に入社しているのが現状です。この構造に課題を感じていますが、変えることができずにいます。
こうした背景をふまえて、企業内で自ら学ぶ人材を育てる方法を考えていきたいですね。
続いて、「DX×本質」で学びをデザインするための大原則とポイントについてご紹介しました。
これらのことから、メンバーが必要な能力を発揮し、成果を出し続けるための学びのリデザインが必要になっているといえます。本当に今必要な学びを提供していくために、1つの大原則と2つのポイントをお伝えします。まず、大原則は、「アウトプット発のデザイン」です。そして、2つのポイントは、「実践と理論の往還」と「自己調整学習」です。それぞれについてお伝えしていきます。
学びをデザインする際には、出口(トレーニングゴール・パフォーマンスゴール・ビジネスゴール)・入口・方略の3つを明確にする必要があります。最初はトレーニングゴールや方略から設定しがちですが、企業内教育では、最終的に業績に繋げなくてはなりませんので、本来は、ビジネスゴールから設計する必要があります。その上で、職場での行動目標であるパフォーマンスゴール、研修の目標であるトレーニングゴールと考えていきます。出口を設定したら、学習者の現状である入口を見て、最後に方略を設定する。これが「アウトプット発のデザイン」であり、非常に重要な考え方です。
※3つのゴールと効果測定については、こちらの記事をご参照ください。
次に、1つ目のポイントの「実践と理論の往還」です。
これを、経験学習モデルといいます。このサイクルの中によいタイミングで「理論」を加えていくことがポイントです。タイミングが早すぎると、実践と理論が結びつかず、納得感が得られません。
私自身も、良いタイミングで経験に理論が加わったことがありました。私は、40歳頃まで企業の研究所に勤務していました。そこでは、漠然と目的を決めてから研究をするよう意識していました。しかし、ある時、突然ビジネス部門に異動となり、途方にくれていたんです。その頃、ゴールの設計から入るという問題解決のフレームワークがはやり出しました。このフレームワークは、私が研究所で感覚的に考えていたことを理論化していました。「これまで研究でやっていたことと同じだ。ビジネスも先にゴールを決めることが大事だ」と思えて、一筋の光が差した気がしました。
今の時代は、これまでと異なる仕事を急遽遂行することが求められることが増えました。しかし、良いタイミングで実践に理論を結び付けていくことができれば、異なる領域でも経験を活かすことができます。
理論なしでサイクルを回しても、なかなか自分の枠を超えることは難しいですよね。理論やフレームワークが入ることで、経験が整理され、より活用しやすい形になるのですね。
経験学習モデルを自分で回すことは難しいため、上司や先輩からのサポートが必要なことが多いです。このサイクルをセルフコントロールできる人が自己調整学習者と言えるのではないでしょうか。しかし、これがなかなか難しく、「本当にできるの?」というご質問をいただくことがあります。
自己調整学習者は、自分で自分の学びをデザインできる人です。自己調整学習は20年以上研究がなされており、訓練をすることによって自己調整学習能力は向上するという結果が出ています。
自己調整学習は、学習目標を達成するために、学習者が自ら作り出す考え方、感情、行動を学習者自身がコントロールすることです。中でも、感情が大切だと思っています。例えば、なかなか仕事がうまくいかないとき、テストで悪い点数をとったときなどに、落ち込んだり逃げたりしてしまうことはよくあります。そこをコントロールしようという話です。方法の1つとして、他責にせずに自責として考えるということが挙げられます。その際、「自分の能力がないからダメだ」と考えるのではなく、行動を省みることが大切です。例えば、仕事や勉強のやり方、スケジュールの立て方などが挙げられます。能力はすぐには伸びませんが、行動は変えることができるからです。そう考えられるようになれば、自己調整の循環モデルのサイクルを回していくことができます。
そうはいっても、感情のコントロールは簡単ではありませんよね。企業内で実践してくためには、どういったことがポイントになりますか? 先輩や上司によるサポートがあればよいのでしょうか?
そうですね。先輩や上司が介入して、振り返りをするとよいですね。対話を通して、学習者のそのときの感情を整理できると自己調整の循環モデルのサイクルが回りやすくなります。
自己調整学習能力は今からでも向上させられるのですね。取り組みがいがあります。今後、特に必要になる能力だと思いますので、自社のメンバーに合った方法を探りながら、一歩一歩積み重ねていけるとよいですね。
DX~HRX時代の学びのデザインとして、「アウトプット発のデザインをする」という大原則と、「実践と理論の往還」と「自己調整学習」の2つのポイントについてご紹介しました。
より具体的に学びをデザインしていくためには、ビジネスインストラクショナルデザインのフレームを活用が有用です。弊社では、定期的にビジネスID講座を開催しております。
どうぞお気軽にお問い合わせくださいませ。
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