コラム

【元教育部長ハヤカワの本音】
今のトレーニングは現状分析の上に成り立っていますか?

回の記事では、教育研修部門と現場がすれ違う原因を取り上げました。今回はOff-JTの目的と現場ニーズを合わせるために必要な「現状分析」について触れていきます。

教育部門へ配属時に感じたこと

教育研修部門の皆さまは、日々社員に対するトレーニングの設計や実行をされていると思います。では、皆さまが設計し、実行しているトレーニングが受講者に対して本当に必要な内容なのか、確認できていますか?

筆者がトレーニングを設計するときは、受講者が今どんな状態か把握し、受講者の課題を確認する「現状分析」を最初の一歩と考えています。「そんなこと当たり前じゃないか」と思う方も多いと思いますし、筆者も教育研修部門に異動する前は、同じように考えていました。

当時の教育研修部門では、新卒や中途で入社した社員への教育や、現場の営業担当者への支援など幅広く担っていました。異動前に所属していた営業戦略部門で当たり前に実践していたPDCAの考え方をベースに、社内で実施しているトレーニングを見た時、強い違和感を覚えました。それは、現場の課題感と今トレーニングしている内容は本当にマッチしているのか?ということです。

担当トレーナーとの会話から見えてきたもの

違和感に向き合うために、新入社員教育のトレーナーと次のような会話を行いました。

【新入社員教育のトレーナーとの会話】

ハヤカワ:新入社員から直接聞いた情報から、1人ひとりがどのような方々(知識、性格、ストレス耐性、社会人基礎力など)であると認識していますか?

トレーナー:大学卒業段階での資料を見ましたが、特に成績に問題がある方はいないと思います。専門的な大学や学部の卒業生がそれ以外の大学の卒業生と比較して、専門知識があることは当然と考えておりますが、具体的な知識の差などは把握していません。

 

ハヤカワ:採用に関わった人事部門から得た情報から、新入社員1人ひとりがどのような方々(知識、性格、ストレス耐性、社会人基礎力など)と認識していますか?

トレーナー:人事からは2名ほどナーバスになっている社員がいると聞きましたが、入社直前の導入研修は問題なく終えたと聞いています。

 

ハヤカワ:新入社員1人ひとりの状況から、個々人が抱えている課題を教えてください。

トレーナー:個々の新入社員の現状として、細かな状況は把握していません。ただ、朝起きれなかったという理由で遅刻があった方が2名いて、少し気になっています。また、知識の吸収が遅れている方も数名いるようです。

 

ハヤカワ:新入社員の現時点の全体像をどのように捉えていますか?

トレーナー:全体的に比較的おとなしく、問題になるような社員はいないと思います。ほとんどの新入社員は、依頼したことをしっかり実施しています。

 

ハヤカワ:新入社員の現時点の全体像から、どのような課題を捉えているのか教えてください。

トレーナー:全体的に積極性が足りないというところでしょうか。積極的にアプローチする方も数名いますが。

 

ハヤカワ:これらの情報から、現在実行している対応策について教えてください。

トレーナー:現在、知識の習得が遅れている方への対応として、個別に補講を実施しています。

上記の会話から、このトレーナーは新入社員の現状分析が全くできていないと判断し、早急に関係者へのヒアリングからやり直すよう指示をしました。

ここまでの情報を集め、分析することは非常にパワーのかかることでもあります。しかしながら、個人レベルでの情報を集めたうえで全体像を把握していないと、トレーニング受講者の選定や必要なプログラムが定まらず、効果的・効率的なトレーニングの提供は難しくなってしまいます

なぜ現状分析は大切?

ビジネスインストラクショナルデザイン(BID)の手法でも、PDCAと同じように、まずは現状分析から始めます。対象者に達成してほしいゴールと、対象者の現状とを比較することでギャップを洗い出し、ギャップを埋めるための課題を明確にします。

従って、最初の段階で現状の把握が出来ていないと、「今」立っている位置が分からないままゴールに向かって動き出すことになるのです。さらに、対象者の「今」を変えるために効果的・効率的な教育プログラムであるのかが、分からないという状況につながります。

 皆さまの会社では、現状分析した上でトレーニングが設計、実施されていますでしょうか?筆者のように違和感を覚えている方、自分の会社は大丈夫と思われている方も、一度トレーニングを設計している担当者に、上記のように問いかけて(または自問自答して)みてはいかがでしょうか。

元教育部長ハヤカワ
早川 勝夫


◀◀【元教育部長ハヤカワの本音】Off-JTとOJTの現状を確認しませんか?

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