イベントレポート

ビジネスインストラクショナルデザインによる教え方改革 秋物語 2021 【アッヴィ合同会社様】
トレーニング部門の価値向上に向けた5年間の取り組み 
~ラーニングエクセレンス実現を目指したBID軸の改革~

アッヴィ合同会社のカスタマーエクセレンス本部 ラーニングエクセレンス部 部長 嘉瀬井 章様は、2016年にBID講座を受講されました。その後、トレーナーとして「パフォーマンスゴールの達成」、マネージャーとして「トレーナーの支援」、部門長として「他部署の巻き込み」と、BIDを活用して5年にわたって3つの教育改革を推し進めてきました。立場が変わっても、常に「社員の成長のため」という軸をぶらさずに、部門メンバーの皆様とともに取り組んでこられた改革をご紹介します。

改革I

パフォーマンスゴールを達成する

 

アッヴィ合同株式会社様は、米国に本社を置く、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品企業です。「社員が成長できる文化を基盤として、最先端の科学技術と先進的な取り組みにより、患者様の笑顔に貢献し続けるバイオ医薬品企業になる」というビジョンを掲げています。嘉瀬井様はこのビジョンが業務の軸になっていると語ります。

嘉瀬井様 ラーニングエクセレンス部は、社員の育成を主な仕事としています。営業部門の社員を対象とした全てのトレーニングの企画立案、プランニング、コンテンツ作成、実施を一貫して担っています。
私たちは、「社員が成長できる文化を基盤として」という文章から始まるビジョンに感銘を受けると同時に、「ここに貢献していかなければならない」という強い思いを抱えながら日々仕事をしています。

嘉瀬井様は、2016年にトレーナーとして現在の部門に配属となりました。その年に、営業部門のパフォーマンス向上のために、部として「研修計画書をきちんと作成しよう」という動きがあり、初めてBIDに出会ったそうです。

嘉瀬井様 ラーニングエクセレンス部では、研修を実施するときは、必ずBIDの研修計画書に基づいて、計画を立てることになっています。
また、数年前から、研修ごとにトレーニングゴールとパフォーマンスゴールの達成率を集計しています。特に着目しているパフォーマンスゴールの設定率、達成率は年々上がっています。

続けて、トレーナー時代に意識されていたことをお話くださいました。

嘉瀬井様 トレーナーとしては、「パフォーマンスゴールの達成まで責任を持つ」ことを意識していました。ビジネスゴールの達成を我々の評価軸とすることは、ハードルが高い。だからといって、トレーニングの理解度、満足度を測るトレーニングゴールの達成で終わるのでは物足りない。研修で得たことを現場で実践して初めて意味のあるトレーニングができたといえるので、パフォーマンスゴールの達成まで責任を持つことにこだわりました。
「パフォーマンスゴールの達成まで責任を持つ」ために、3つのことを実践しました。

 

  1. 事業部のニーズ/事業部の課題に沿って研修計画を立てる
  2. 研修計画を立てる際に、事業部側とパフォーマンスゴールまで握る
  3. パフォーマンスゴールまでフォローアップできるようなロードマップを作る

 

研修時間は、自分たちで事業部側と交渉して確保すると考えている嘉瀬井様。そのお考えの背景をお話いただきました。

嘉瀬井様 製品に関するトレーニングでは、マーケティング部やセールス部とのすり合わせをしますが、話が噛み合わないことがありました。それは、マーケティングやセールス部が「これだけの時間があるから何か研修をやって」と時間枠で考えるのに対し、我々は「何のためにするのか」と目的で考えているからでした。
そのため、「本当にやりたいことは何か」、「なぜ必要なのか」について話し合った上で、「そこにたどり着くにはこのくらいの時間が必要である」という話をするようにしていきました。そういう意味では、「必要な研修時間は自分で取りにいく」という気持ちでしたね。現在も、メンバーにはそうアドバイスをしています。

改革II

トレーナーを支援する

 

BIDを学んだ翌年からチームのマネージャーとなった嘉瀬井様。2つ目の改革として、トレーナーの支援に取り組みました。

嘉瀬井様 私は、トレーナーが成長するためには上長の支援が必要だと考えています。そこで、トレーナーが、元気に仕事に取組み、成長していくために、「エンゲージメント向上の仕組み」を作りました。具体的には、実践する、育成する、評価する、の3つの視点での仕組みです。

 

  1.  実践する
    業務を実践するにあたり、SOP(Standard Operating Procedure:標準業務手順書)やWI(Work Instructions:作業要領)を作成して、研修計画書/報告書を必ず作成すること等を明記しています。これらに基づいて業務を行うことで、質が高く、平準化された研修を提供することを目指しています。
  2.  育成する
    トレーナーのあるべき姿(ゴール)を定めることで、どこを目指すのかを明確にしました。トレーナーのコンピテンシーモデルです。
  3.  評価する
    実績や行動目標に基づく評価はありますが、トレーナーは、自分たちがどのように認められ、どのように評価されているのかが分かりにくいというモヤモヤ感を抱えていました。そこで、会社の基準に基づいて、ラーニングエクセレンス部版の目標・評価基準の設定を行いました。項目ごとに求められる行動と避けたい行動などを定めています。

 

このように、ラーニングエクセレンス部内でのトレーナーの支援においても、BIDの概念を取り入れた改革が進められていきました。

改革Ⅲ

他部門を巻き込む

 

その後、部門長となった嘉瀬井様は、パフォーマンスゴール達成には現場の上長の協力が必須であると考え、3つ目の改革としてその仕組み作りに着手しました。

嘉瀬井様 パフォーマンスゴールを達成するには、教育部門である我々が現場上長の育成にも責任を持たなくてはならないと考えています。
職場の学びには、自分の経験からの学びが70%、他者からの学びが20%、研修での学びが10%といわれているワークプレイスラーニングの学習モデルがあります。この内容を現場の上長や社内全体に浸透させたいと思いました。そこで、経営層の会議で時間をもらい、トレーニングの考え方や、MRを育てるには現場上長の協力が必要であることを伝え続けています。
また、経営層の方々に、我々の考えややっていることを知ってもらうことで、トレーナーに陽が当たるようになると思っています。
営業部の組織は、MR、エリアマネージャー、部長、営業統括部長、事業部長、事業本部長と階層が複雑です。トレーナーは、1人が1事業部を担当することが多いので、常に自分よりも職位の高い人たちと話をしていかなくてはならず、とても大変です。これを支えるため、マネージャーは営業統括部長や事業部長に、私自身は事業本部長に、とマネージャー自身も職位を超えて働きかけるようにしています。

さらに、受講者の上長を巻き込むための方法を具体化して、トレーナーに示すこともしています。

嘉瀬井様 例えば、研修のオープニングは、受講者の上長から研修の目的やゴールを語ってもらうようにしたり、研修後に上長に受講者をフォローアップしてもらえるようなお願いをしたりします。
また、研修計画を立てるときに、受講者の上長の巻き込みに必要なことはあらかじめロードマップに組み込みます。
最近では、受講者の上長に対して事前に説明会を実施することも始めています。

終盤には、これまで積み重ねてきた結果とこれからの未来についてお話しいただきました。

嘉瀬井様 「MRの成長を促すには、現場上長のサポートが必要」ということが会社全体で理解されつつあります。そうすると、今度はMRを育成できる上長、さらにMR上長を育成できる部長の育成を依頼されるようになりました。
対象者のポジションが上がっている分、実施する我々のケイパビリティも上げる必要があり、これは悩ましいところです。
しかし、ラーニングエクセレンス部の「エクセレンス」には、「常にエクセレントな状態を目指す」マインドセットを持つという意味合いがあります。我々も変化に適応していけるように、トレーナーのスキルアップをはかりながら、他部門と連携していきたいと考えています。

締め括りは、嘉瀬井様が部門長になった時に立てた5ヶ年計画についてでした。

嘉瀬井様 部門長になった時に5ヶ年計画を立てました。
振り返ると、半分くらいは実現できているように思います。

1年目・・・BIDを駆使して研修計画を立てられること
2〜3年目・・現場上長を育成するトレーニングを行うこと
5年後・・・育成コンサルタントといった存在になること

エクセレントを目指すためのチャレンジはまだまだあります。プログラムごとのグランドデザインや一研修の研修計画書に加え、チームの年間プランを示す研修計画書を部内で作成し、つないでいこうというものです。計画的に進めていくことで、パフォーマンスゴールの一層の達成に向けた、つながりのあるトレーニングを提供できると考えています。

BIDの視点で振り返る

専門家×実践家からのコメント

 

鈴木先生より専門家の視点からフィードバックをいただきました。

鈴木先生 よいステップで成長していますね。おそらくご自身が果たすべき役割が大きくなっていったので、狙うべきスコープも大きくなっていったのでしょう。

2段階のパフォーマンスゴールについて

パフォーマンスゴールを2段階に設定しているとお話がありました。1段階では測定までの期間が長すぎるので、中間のゴールを設定したのでしょう。確かに、中間ゴールがあることで、途中で受講者が現在の立ち位置を確認できるので、「このままでは最終的なゴールに到達しない。頑張らなければ!」と思わせる効果があるかもしれませんね。

発展:早めにゴールに到達したらすぐに現場に送り出す

さらに発展させると、「最終的なゴールはこれ」という2段階目のゴールの達成を、半年後まで待つ必要はないのではないかと思います。達成できたら現場で実践し、達成報告をしてもらう。目安としてパフォーマンスゴールを設定していても、それより早めに達成できるならその方がよいという考え方です。受講者は常に「パフォーマンスゴールは何か」を意識して行動することになります。達成した段階で報告とすれば、他の受講者の行動も促すなど、良い影響を与えるかもしれませんね。

次に目指すのは、ビジネスゴール

一生懸命教育をしても、ビジネスゴールに繋がっていなければ、経営トップが「もっとリソースを提供するので、一層頑張ってほしい」と後押ししてくれるようにはなりません。
研修によって、どのくらい売上や顧客満足度が上がったのか。繋がりを証明することは難しいですが、少なくとも本部長クラスの方々に、「研修の成果として、売上に繋がっている実感を持ってくれているか」は確認してもよいと思います。

最後に、弊社森田より実務家の視点でコメントをさせていただきました。

森田 経営層に喜んでもらうためにトレーニングをするわけではありませんが、組織に貢献しなければ、教育部門の皆様の頑張りが正当に評価されない可能性があります。難易度は上がりますが、ビジネスゴールの達成はやりがいがありますね。
ビジネスゴールの達成まで結びつけるとなると、研修以外の施策についても責任権限を持つ部門になるかどうかというフェーズを迎えることになります。いわゆるパフォーマンスコンサルタントといったポジションかもしれませんね。その分、責任は重くなりますが、チャレンジする意義は大きいでしょう。
アメリカには、経営層の中にCLO(チーフ・ラーニング・オフィサー)がいる会社があります。嘉瀬井様のように、教育部門の部長職の方がBIDを理解して取り組まれていることが素晴らしいですよね。

 

 

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