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人財育成・研修設計に関するお役立ちコラム
「人財育成の取り組みは、本当に組織や人の成果につながっているのだろうか?」
「その成果を、どのように評価すればよいのか?」
これまで全5回の連載を通して、評価の専門家であるエグゼクティブアドバイザーの津崎たからさんとともに、「評価学」や「形成的評価」「エブリデイ・インディケーター」といった視点から、職場学習(WPL)とは何か、育成施策の成果をどう評価するかを紐解いてきました。
連載の第6回・第7回は、津崎さんとサンライトヒューマンTDMC(以下、SLH)メンバーによる座談会の様子をお伝えします。
写真左から:岡村幸路(ラーニングプロセスコンサルタント)、津崎たからさん(エグゼクティブアドバイザー)、森田晃子(代表取締役社長&CEO)、野添晃司(常務執行役員&COO)
第6回では、学術知と実践知の両輪を深く探究し「理論にとどまらず現場での実践に挑む」という共通の価値観を持つ両者の対話を通じて、数値管理に偏りがちな組織課題の構造を整理しながら、「WPL3.0と評価学を掛け合わせることで、一体何が見えてくるのか」その新たな可能性を解きほぐしていきます。
岡村(SLH):津崎さんに当社のエグゼクティブアドバイザーに就任いただいてから、早いもので数ヶ月が経ちました。第6回と第7回は、連載の特別企画として、津崎さんと私たちSLHメンバー(森田、野添、岡村)による座談会をお届けします。
私たちは津崎さんのことを理論と現場の実践を双方の視点から深く語れる、日本中探してもなかなか出会えない貴重な探究者だと思っており、エグゼクティブアドバイザーとしてお迎えすることができ、とても幸運だと感じています。
森田(SLH): 本当にそうですね(笑)。私たちの提唱する「WPL3.0」と、津崎さんが長年追究されてきた「評価学」の世界観が、これほど深くシンクロするとは思っていませんでした。
津崎: ありがとうございます!でも、私もSLHの皆さんと初めてお話ししたとき、「表面的なノウハウにとどまらず、本質的な組織の学びを探究されている心強い仲間に出会えた!」と、ものすごく嬉しくなったのを覚えています。私が研究している「評価学(Evaluation)」という学問は、「測定のテクニック」と誤解されがちですが、本質はまったく異なります。今日は、なぜ「評価学」、特にその中でも私が専門としている評価理論や評価的思考と「WPL3.0」がこれほど深くシンクロするのか、その背景や構造を皆さんと語り合えればと思います。
森田(SLH): 一般的に「評価」と聞くと、KPIの達成率や評価シートのスコアといった「数字で管理・判定する手段」を思い浮かべる人が大半だと思います。
ただ、津崎さんの発言の端々からは、数字の測定ではなく「人間や組織の営みの中から、いかに本当の価値を見いだすか」という姿勢がすごく伝わってくるんです。この、一般的にイメージされる「評価」と、津崎さんが研究されている「評価学」の違いはどこにあるのでしょうか?
津崎: 私が専門にしている「評価学」には、その根底に評価理論や評価的思考、さらには評価倫理などの分野があり、まさに「私たちが何に価値(Value)を置いているのか」「価値とはどのように形成されるのか」という根本の問いを扱います。英語の「Evaluation(評価)」という言葉をよく見ると、真ん中に「Value(価値)」という単語が入っていますよね。つまり、評価とは本来、点数やランクをつけて人を「ジャッジする(裁く)」ことではなく、「何に本質的な価値があるのか」を見つけ、それを育てる営みなのです。
私自身20年以上にわたって国連機関や国際協力、医療・福祉などのさまざまな現場で「見えない価値」を可視化する仕事をしてきました。その中で、痛切に感じてきたのは「数値化しやすい事実だけがトントンと人の手に渡って、本当に大事な、数値化しにくく曖昧で、時に面倒くさいと捉えられがちな事実が、いつの間にか切り捨てられたり、葬られたりしてしまう」という現実です。
岡村(SLH): 報告しやすい数値データと違って、数値に表れないプロセスや手応えを自ら言語化したり、他者に納得してもらう形で共有したりするのは、難易度が高いですよね。そもそも現場自体がその価値に気づいていないことも多いですし、だからこそ余計に埋もれてしまいがちだと感じます。
津崎: そうなんです。だからこそ評価には、「事実を特定すること + 価値を判断すること = 評価」という方程式があります。

「事実の特定」とは、何が起こっているかをデータで描写すること。しかし難しいのは「価値の判断」です。 多くの既製の人事サーベイやアセスメントは、「他社比で何点足りないか」「業界平均と比べてどうか」という、外部の一律な基準で価値判断までセットにして提示されることが少なくありません。でも、その「与えられたものさし」は、あなたの組織が本当に大切にしたい文化や目的と合致しているでしょうか?
森田(SLH): 本当にそうですね。最近は「人的資本経営」の流れで「エンゲージメントサーベイ」を導入する企業様が増えていますが、「集計データをどう組織変革や現場支援に繋げるか」という活用のステップで壁にぶつかっているお話をよく伺います。日々の忙しさもあり、どうしても「他社比較」や「スコアの上下」といった目に見えやすい数字の確認に留まってしまうのが現実ですよね。
津崎: まさに、そのイメージは健康診断とも言えそうですね。結果の数値だけを見て一喜一憂して、日々の習慣を何も変えなければ、気づかないうちに健康状態は悪化してしまいます。本来は「私たちが良い状態(健康)であるとはどういうことか」を、日々の仕事や対話のなかで体感できていれば、わざわざ測定しなくても大体の状態は分かっていくはずです。サーベイや評価はあくまで、客観的に状況を見るための一つのバロメーターにすぎません。最終的には「外側の数字に頼りすぎなくても、現場が自走していける状態」を目指すことが理想です。
ただ、人間には「分からないものは怖いから、何とかして言葉や数字にしたい」という本能的な欲求があります。 だから、そうした深い対話を飛び越えて、手っ取り早く現状を可視化してくれる使い勝手のいい指標に飛びついてしまう。でも、そこで立ち止まって「私たちは何を大事にしたくて、この評価を導入しているのか」という問いを深めなければ、評価が「数字を集めること」自体で止まってしまい、本来の目的から離れてしまいます。
津崎: 私がSLHの皆さんと一緒に活動したいと強く思った理由の一つが、研修評価の限界、いわゆる「レベル4の壁」を突破できるかもしれないという期待感でした。評価の世界には、カークパトリックの4段階評価モデルという有名なフレームワークがあります。レベル1が受講者の反応、レベル2が学習、レベル3が職場での行動、レベル4が組織の成果です。私も研修評価のプロジェクトでよく使いますが、素晴らしい研修を設計して、反応(レベル1)や学習(レベル2)で満点を取っても、職場での行動(レベル3)や組織の成果(レベル4)にはなかなか繋がらないという大きな葛藤を抱え続けてきました。
ただ、これは現場の努力が足りないという話ではないのです。4つのレベルが自動的に次へつながるという前提そのものが、実証的には支持されていないという指摘が、すでに1989年に出されています。つまり「壁」は構造的なものなのです。
森田(SLH): その葛藤、私もビジネスインストラクショナルデザイン(BID)を追求する中で、まさに何年も向き合ってきたテーマです!研修設計の段階から「レベル3のパフォーマンスゴールは3ヶ月後にこう測る」「レベル4のビジネスゴールをここに置いて逆算する」と、緻密に設計書を書くんです。でも、いざ現場に戻った受講者を追跡しようとすると、「現場が忙しすぎて動けない」「上司の理解が得られない」と、研修の成果が職場で消えてしまう。
津崎さんが第2回で書いてくださったように、研修という花火が綺麗に打ち上がっても、日々の「燃焼」を続けるためには、職場という燃焼室に酸素と燃料(上司の支援や試す機会)がなければ、火はすぐに消えてしまう。研修から現場へと矢印を引くだけのアプローチ(研修中心主義)は限界があると常々感じていました。だからWPL3.0という職場学習の現場の土壌を耕して、どんな種(研修での学びや日々の業務での気づき等)が落ちてきても、自然に芽吹いて育つような『学習する土壌』を先につくるべきだというところに辿りついたのです。

津崎: 面白いのは、その答えを研修評価の本家自身も出していることです。カークパトリックの4段階は、2016年に「New World Kirkpatrick Model」として整理し直されているのですが、そこでレベル3に「Required Drivers(必須の推進要因)」という要素が加わりました。職場で望ましい行動を補強し、見守り、励まし、報いる仕組みのことです。
そして順序も反転させています。レベル1から順に積み上げるのではなく、まずレベル4の成果を決め、そこから逆算して設計せよ、と。つまり「研修を磨けば現場が変わる」ではなく「現場の仕組みを整えなければ研修は効かない」という方向に、研修評価の本家が自分で舵を切った。森田さんがおっしゃった燃焼室の話と、同じことを言っているわけです。
そして、「現場の土壌を耕す」という方向転換が、評価学が歩んできた道筋とも重なります。ただ、ここは丁寧に申し上げたいところで、実は性質の違う二つの話が混ざりやすいんです。
津崎:一つは、時間の軸です。評価という営みは、20世紀の初めごろ、学力テストや知能検査で子どもを「測る」ところから始まりました。評価者は測定の技術者だったわけです。次に1930年代のアメリカで、ラルフ・タイラーという教育学者が「掲げた目標に照らして、何が達成されたかを記述する」という考え方を打ち出します。ここで評価者は、記述を行う役割を担う人となった。

評価学にとっての大きな転機は1960年代のアメリカです。ジョンソン政権の「偉大な社会(Great Society)」構想のもとで、貧困対策や教育に巨額の連邦予算が投じられました。なかでも1965年の初等中等教育法は、連邦資金を使う地方の事業に評価を義務づけたことで、お金を出した以上、効果を証明せよという流れが起こります。こうなると「記述するだけ」では済みません。「事業が良かったのか悪かったのか、その価値を判断せよ」と迫られる。ここで評価者は、判定(ジャッジ)を下す役割を担うようになります。
これは、いまの人事の現場で「研修に予算をつけた以上、効果を数字で示してほしい」と言われるのと、まったく同じ構図にみえますよね。
森田(SLH): 予算がついたからこそ評価が求められた、という順番なんですね。
津崎:そうなんです。ただ、外から持ち込んだものさしで判定している限り、現場の納得は得られません。そこで、関係者が対話を重ねて価値そのものを一緒に組み立てていく段階が現れます。ガバとリンカーンが『第4世代評価』(1989年)で描いたのが、この転換でした。
測る、記述する、判断する、そして一緒に組み立てる。この流れは、先輩の背中を見て学んだ「WPL1.0」、一律の制度を上から配る「WPL2.0」、職場ごとに最適化する「WPL3.0」と、確かに響き合っています。
森田(SLH): なるほど!私たちがお客様と向き合いながら整理してきた「WPL 1.0 〜 3.0」の進化と、評価学の歴史的な変遷は、まさに同じ時代の変化に向き合い、同じ階段を登ってきたんですね。
津崎: まさにそうで、響き合っている印象がありますね。ただ、階段を登り切った先に正解がある、というより、手札が増えてきた、と捉えるほうが実態に近いと思っています。「WPL 2.0」の一律な施策を上から配るだけのやり方は、評価学でいえば標準化された総括的評価の押し付けに近い。それに対して「WPL3.0」は、現場の一人ひとりが「私たちの職場にとっての本当の価値は何か」を対話を通じて見いだしていくアプローチです。これは形成的評価そのものですね。元々はスクリヴンが1967年に、最終的な判定を下す総括的評価と、進行中の営みを良くしていくための形成的評価とを区別したことに始まります。これは半世紀以上前ですが、対話を通じて価値を組み立てていく評価の流れのなかで、いま改めて要になっている。
津崎:ただ、この時間軸とはまったく別の軸がもう一つあります。いま評価の世界に並んで存在している立ち位置の話です。マーテンズとウィルソンは、評価の理論を4つの分枝に整理しました。方法の厳密さを重んじる「Methods(方法)」、使われてこそ意味があるとする「Use(活用)」、価値づけそのものを問う「Values(価値)」、そして不公正を正すことを目的に置く「Social Justice(社会正義)」です。

大事なのは、これは古い・新しいの順番ではない、ということです。4つとも、評価の手法やアプローチとして現役で使われています。私がSLHの皆さんとご一緒させていただくようになって感じるのは、「WPL3.0はValuesの分枝に軸足を置いたアプローチ」という意味で画期的ですが、だからといって方法の厳密さも、評価が使われることへのこだわりも、捨てているわけではない。非常に本質的な問いに向かって設計をされているということです。
だからこそ、SLHの皆さんのお話を初めて聞いたとき、長年評価の世界で探究してきた理論と現場の実践が結びついたような、大きな手応えと面白さを感じたんです。
森田(SLH): そう言っていただけて本当に光栄ですし、報われる思いがします。私たちが現場での実践から紡ぎ出してきた「WPL 3.0」のアプローチが、評価学の歴史的な進化や「価値を育む形成的評価」の思想と重なり合っていたのだと分かり、私たちにとってもこれ以上ない大きな勇気になりました。
岡村(SLH): 理論と実践が出会い、新たな可能性が見えてきたところで前編はここまでとなります。 後編では、なぜ多くの組織が評価に身構えてしまうのかという心理的な壁や、それを突破して現場から変革を起こすための実践について深掘りしていきます。ぜひ後編もご期待ください!
第1回 連載開始にあたって:エグゼクティブアドバイザー・津崎たからさんをお迎えして
第2回 なぜ、人財育成の成果は「見えない」のか?
第3回 評価が教えてくれる、人を動かす「ものさし」の作り方
第4回 学びの9割は、現場にある。——毎日の何気ない仕事から、“ものさし”はつくれるのか?
第5回 現場の「見えにくい努力」を、言葉にすることから始めよう
第6回 津崎さん×SLH対談記事(前編)
第7回 津崎さん×SLH対談記事(後編)
「研修は改善されたが、現場の行動変容や成果に繋がらない」「社員の自律的な学びや、上司の育成支援が進まない」。 そんな人材育成の壁に直面していませんか? 本講座は、不確実なビジネス環境下において、「職場そのものを学びの場に変える」ための新たなアプローチ、「WPL(ワークプレイスラーニング)」を習得するプログラムです。
企業内の人の成長に関することであれば、どのようなことでもお気軽にご相談ください。

津崎たから / Tsuzaki Takara
エグゼクティブアドバイザー
合同会社 TAKARA Standard 代表社員
「事業や組織の営みの本質的な価値とは何か」を問い続ける評価学の研究者・実践者。 米Macalester College卒、London School of Economics社会政策・NGOマネージメント修士号を取得。現在Western Michigan Universityの学際的評価学の博士課程に在籍し、世界基準で評価研究に従事。 20年以上にわたり、国連機関、金融機関、自治体、NPO、医療、社会福祉、国際協力等の分野で活動。国内外の査読付き論文・学会発表多数。2023年日本評価学会奨励賞受賞。
【本記事で触れた主な文献】
Guba, E. G., & Lincoln, Y. S. (1989). Fourth Generation Evaluation. Sage.
Mertens, D. M., & Wilson, A. T. (2019). Program Evaluation Theory and Practice: A Comprehensive Guide (2nd ed.). Guilford Press.
Scriven, M. (1967). The methodology of evaluation.
Kirkpatrick, J. D., & Kirkpatrick, W. K. (2016). Kirkpatrick’s Four Levels of Training Evaluation. ATD Press.
Alliger, G. M., & Janak, E. A. (1989). Kirkpatrick’s levels of training criteria: Thirty years later. Personnel Psychology, 42(2), 331–342.
佐々木亮(2010)『評価論理──評価学の基礎』多賀出版
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