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人財育成・研修設計に関するお役立ちコラム
「様々な職場内のニーズに応えるために、なるべく多くの研修を導入しています。研修後の満足度アンケートの点数も高い。……で、うちの職場、結局なにが変わったのでしたっけ?」——こう聞かれて、言葉に詰まったことはありませんか。
はじめまして。津崎たからと申します。
評価(Evaluation)という営みの研究と実践を行っています。20年あまり、国連機関から自治体、病院や福祉の現場まで、いろいろな組織の「見えない価値」を可視化する仕事をしてきました。現在はアメリカの大学院で、様々なレベルの評価の根底にある倫理や哲学を学んでいます。
なぜ、私が「価値」や「評価」にこだわるのか。
「評価」と聞くと身構えてしまったり、目をそらせたくなってしまったり、そして、過去に受けた苦い経験を思い出して、もやもやしてしまう感覚があるかもしれません。しかし、世の中は評価と無縁に生きることができないのも事実です。
このコラムでは、人が育つ職場、特に、ワークプレイスラーニング(WPL)の話をしていきます。初回のテーマは、多くの経営者や人事の方が抱えるこの問いです。
人財育成の成果は、なぜ「見えない」のか。
少し、場面を思い浮かべてみてください。研修の成果を可視化する際に、実施回数、受講人数、満足度アンケートの平均点など、数値をグラフ化して研修導入の前後の比較をすることが多いでしょう。数字は立派なのに、なぜか胸の奥がざわつく。「これ、ほんとうに現場の力になっているのだろうか?」。その違和感を抱くのは、あなただけではないと思うのです。
「なぜ成果が見えないのか」。その理由は、職場の学びの大半が「見えにくい場所」で起きているからです。
アメリカのある研究機関が、約200人の経営幹部に「あなたを成長させた出来事は?」と尋ねたことがあります。回答の内訳をみてみると、7割が「困難な仕事の経験」、2割が「人からの学び」、そして研修はたった1割でした。「70:20:10」と呼ばれる、人材育成の世界では有名な調査です。
つまり研修は、人材育成の氷山の一角でしかありません。水面の上に出ている、見えやすい部分にすぎないのです。その下には、日々の仕事から、上司やお客さんとの対話から、という、あまり目立たず地味な学びの塊が水面下に静かに沈んでいます。私たちはつい、見えやすい一角に着目して「成果が出ない」と嘆いてしまうのです。

学びの多くは、水面下の日々の仕事の中にある
なぜ、見えやすい一角ばかりを数えてしまうのか。理由は明快です。
研修には実施日時があり、参加者名簿があり、予算がついている。だからその効果を「測りやすい」。一方、水面下の日々の学びには、定められた固定の時間も名簿もありません。測りにくいから、いつのまにか、なかったことにされてしまうのです。
また、測りにくい理由のもう一つは「時間の差」です。
研修実施を「点火」だとすると、職場環境の変化は「燃焼室」で起こります。研修はイベントのようなもので、研修という花火を放っても、いつもの職場にそれを温め続ける酸素と燃料がなければ、火は自然と消えてしまう。つまり、上司の後押しや、試す機会、そして続けられる仕組みを日々、刻々と誰かが後押しし、推進し続けることが必要なのです。学びが本当に続くかどうかは、研修が終わった後の職場で決まります。これは「研修転移」の研究が、30年以上前から一貫して示してきたことです。
花火は一瞬、燃焼は毎日。私たちは「点火」を追い続け、点火時に起こっている事を測定したり、観察したりすることは得意ですが、「燃焼」の形跡を観察し、測定する言葉をなかなか持てていないと思うのです。
私たちは、評価にあふれた社会に生きてきました。物心ついた頃から誰かと比べられ、成績表や査定表で進路が決まっていくという経験を持っていると思います。測りやすいものが着目され、アセスメントや評価が行われてきました。しかし、評価の「ものさし」(基準)が目指す姿や方向性とずれている時、何が起きるでしょうか。
プロジェクト自体はとても素晴らしいのに、その評価の基準が事業の方向性と合致していないせいで、大切な要素に光が当たらず、静かに打ち切られてしまう。反対に、みんな薄々「これは違うな」と感じている事業が、数字の上では「良い」と評価されてプロジェクトが延命する。そんな状況に遭遇したり、そのような評価の渦中でもどかしい思いをした人もきっといらっしゃるでしょう。
しかし、重要なのはただ闇雲に数字を追いかけることではなく、立ち止まって「何を測ろうとしているのか」、「何を大事にしたくて評価を導入しているのか」の問いを深めていくことです。
では、どうすればよいのでしょうか。ここで一つ、評価で使える概念とツールを紹介させてください。
「結果の指標」と「先ぶれの指標」を分ける、という考え方です。
どのような職場でも、売上や離職率は、取り組みを行った直後ではなく、時間がある程度経過しなければわからない「結果の指標」とも言えます。一方、その結果の手前で必ず動く行動——たとえば「上司と5分の振り返りをした後、社員が前向きに仕事に取り組めた」「1on1で少し背伸びした仕事を任せられて、目の色が輝き始めた」「チーム内で自然に教え合いが起きはじめた」——は、「先ぶれの指標」としてとらえることができます。これらは微細な動きで、気を付けて見ていないと見逃してしまうようなことかもしれませんが、変化の兆候として大事な要素に気づく力が生まれます。 売上が動くのは数か月先でも、このような小さな行動変化は、その前から捉えることができる。しかも、本人たちが手応えを感じられるのです。
以前、伴走していたプロジェクトチームでこんなことがありました。
「成果指標は変えられない」「上から与えられる評価指標では、私たちの価値は表現できない」と焦るメンバーに、「今すぐ評価の枠組みや指標を変えることは難しいけれど、1-2つ自分たちの価値観に根差した行動指標をつくって、確実な手ごたえを掴もう」と話し、1人1人の手ごたえ感がどこから発生するかをじっくり話あったのです。
結果、数字より先に、現場の雰囲気が変わりました。成果が見えないのではありません。成果に先立つ小さな動きを言葉にして、自分たちの変化の兆しを指標にし、少しずつ動かしていったのです。
このような「日々の小さな動き」から成果の先ぶれを組み立てる試みを、評価の実践者は「エブリデイ・インディケーター(毎日の指標)」と呼んで、さまざまな現場で活用しています。「変化が見えない」と嘆く前に、見えている、見過ごしてきた学びに、そっと名前をつける。それが、評価とWPLが出会う、最初の一歩だと思っています。 さらにこのような見方は、経営の判断にも良い変化をもたらすのではないかと考えます。研修の効果を「実施時間」や「受講人数」で測るのではなく、「その後の日々の学習行動が続いているか → 現場の課題が変化してきたか → 業績がどう変化してきたか」というつながりと連鎖で捉えていく。すると、これまで言語化されないがゆえに投資されてこなかった日々の学びに、はじめて投資の根拠が生まれるのです。
次回は、その「ものさし」を、どうつくるのかをお伝えします。
第1回 連載開始にあたって:エグゼクティブアドバイザー・津崎たからさんをお迎えして
第2回 なぜ、人財育成の成果は「見えない」のか?(本記事)
第3回 評価が教えてくれる、人を動かす「ものさし」の作り方
▼Coming Soon
第4回 学びの9割は、現場にある。——毎日の何気ない仕事から、“ものさし”はつくれるのか?
第5回 現場の「見えにくい努力」を、言葉にすることから始めよう
第6回 津崎さん×SLH対談記事(前編)
第7回 津崎さん×SLH対談記事(後編)

津崎たから / Tsuzaki Takara
エグゼクティブアドバイザー
合同会社 TAKARA Standard 代表社員
「事業や組織の営みの本質的な価値とは何か」を問い続ける評価学の研究者・実践者。 米Macalester College卒、London School of Economics社会政策・NGOマネージメント修士号を取得。現在Western Michigan Universityの学際的評価学の博士課程に在籍し、世界基準で評価研究に従事。 20年以上にわたり、国連機関、金融機関、自治体、NPO、医療、社会福祉、国際協力等の分野で活動。国内外の査読付き論文・学会発表多数。2023年日本評価学会奨励賞受賞。
【参考文献】
McCall, M. W., Lombardo, M. M., & Morrison, A. M. (1988). The Lessons of Experience: How Successful Executives Develop on the Job. Lexington Books.
Marsick, V. J., & Watkins, K. E. (1990). Informal and Incidental Learning in the Workplace. Routledge.
Baldwin, T. T., & Ford, J. K. (1988). Transfer of training: A review and directions for future research. Personnel Psychology, 41(1), 63–105.
Blume, B. D., Ford, J. K., Baldwin, T. T., & Huang, J. L. (2010). Transfer of training: A meta-analytic review. Journal of Management, 36(4), 1065–1105.
Kirkpatrick, J. D., & Kirkpatrick, W. K. (2016). Kirkpatrick’s Four Levels of Training Evaluation. ATD Press.
「研修は改善されたが、現場の行動変容や成果に繋がらない」「社員の自律的な学びや、上司の育成支援が進まない」。 そんな人材育成の壁に直面していませんか? 本講座は、不確実なビジネス環境下において、「職場そのものを学びの場に変える」ための新たなアプローチ、「WPL(ワークプレイスラーニング)」を習得するプログラムです。
企業内の人の成長に関することであれば、どのようなことでもお気軽にご相談ください。
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