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人財育成・研修設計に関するお役立ちコラム
「測れないものは、管理できない」。よく聞く言葉です。でも私は、評価を学ぶほど、これを逆から考えるようになりました。
先に問うべきは「どう測るか」ではなく、「そもそも、何を『よいことこと』とするのか」なのだ、と。
「評価(evaluation)」という言葉をよく見てみると、真ん中に「価値(value)」という単語が入っています。
評価とは本来、点数をつけることではなく、「何に価値があるのか」を見つけて、育てる営みなのです。
目次
評価の方程式と「標準化されたアセスメント」の違和感 「判定」の評価から、「よくする」ための評価へ 「測る」が「見張る」に化けてしまう時 事例:ものさしは一方的に「与える」ものではなく「一緒につくる」もの おわりに:ものさしづくりは「対話づくり」評価には、実は方程式があります。
「事実を特定すること + 価値を判断すること = 評価」
事実を特定するとは、何が起こっていて、何が存在するのかというように、目に見えるものを言語化する試みです。難しいのは後半の価値判断の方です。
世の中にある一般的なアセスメントサービスや人事サーベイの多くは、データを集める(事実特定)だけでなく、「業界平均と比較してどうか」「他社比で何点が足りないか」といった外部からの一律な基準で「価値判断」までセットで提示されることが多いのではないでしょうか。
外部と比較する指標が役立つ場面もありますが、その「与えられた一律のものさし」は、「あなたの組織が本当に目指したい目的や価値」と合致しているでしょうか?
価値判断は本来、どのような経験をしてきたか、何を大切にしているかという組織や個人の文脈によって異なるはずです。業界平均で良い点が取れても、自社が本当に育てたい文化や学びが置き去りになってしまっては意味がありません。
評価が難しいと感じられる理由は、まさにこの「誰のどんな基準で価値を判断しているのか」が曖昧なまま評価が行われてしまう点にあります。
「評価」と聞くと、なぜ私たちは身構えてしまうのでしょう。
評価には大きく2つの方法があります。1つ目は総括的評価。
期末の試験や研修後のテストのように、終了時に、客観的に点数をつける評価。これを専門的には「総括的評価」と言います。学校や職場で行われる評価の多くはこのように「最終的にどうだったか」に評価の観点が置かれた評価になっています。
しかし、評価にはもう一種類あるのです。プロジェクトの途中で介入し、改善していくことを目的に行う評価で、「形成的評価」と言います。
この2つを対にして整理したのは、評価研究の巨匠と言われるマイケル・スクリヴンという人で、評価学の世界では半世紀以上前からこれらの方法が区別されて、評価の実践の場で活用されています。
これを、スープを作るという工程とスープを食べる、味わう時という例えで表現してみると分かりやすいかもしれません。
スープを作るとき、材料を揃え、鍋に材料を入れ、煮て、味付けをします。シェフがどのように調理しているかを見ずに、最終的に出来上がったスープを採点するのが総括的評価と言えるでしょう。そして、シェフと評価者(料理長、お客さんなど)がスープづくりの途中経過にも関与して、途中味見をしたり、意見を添えたりしながら、最終的にスープを完成させるのが形成的評価です。
同じ「味を見る」という行為でも、一方は「最終判定」を目的としており、もう一方はおいしいスープを作り上げるプロセスに関与することが目的です。目的がまるでちがいますね。

同じ「味を見る」でも、目的がちがう
教育の世界では、この途中で味見する評価こそが、いちばん人の成長に寄与することがわかっています。点数をつけるためではなく、次の一手のために定点観測的に評価をして、より前に進んでいくための言葉がけをする。それだけで、学びは驚くほど変わるのです。
職場でも、同じでしょう。四半期に一度、評定をつけるためだけの面談。評価する側もされる側も、何を根拠にジャッジするのか、されているのかが分からず、もやもやしてしまう、という話をよく耳にします。
「どこがうまくいっていて、どんなところで応援が欲しいのか、次はどのような点に注力したいのか」が深く対話で導き出されているでしょうか?
評価は、人を裁くためではなく、次のよりよき一手のために向き合う機会として活用する機会になりえるのです。
評価を、やらねばらない関門から、日々の伴走のための栄養にする。その意識と目的の捉え直しによって、職場での人の成長が、まるで違ってくるのです。
評価が目的化すると、「測る」がいつのまにか「見張る」に化けてしまう瞬間があります。
数字が賞罰に直結した瞬間、人は仕事そのものより「よく見えること」に力を注ぎはじめる。
ある人類学者(ストラザーン)の言葉が、胸に突き刺さります——「測ることが目的になると、それは、いい測定ではなくなる」。
思い当たることはないでしょうか。
研修後のアンケートに、なぜか毎回きれいな高得点が並ぶ。あるいは、目標管理シートが、達成できそうな無難な目標ばかりになる。
これは、人が不真面目だからではありません。「測られる」と感じた瞬間、私たちは自然と「よく見せたい」と感じ、よく見せるための行動や数字合わせをしてしまいます。
評価の怖さは、多くの場合、この評価観なのです。
だから、ものさしは一方的に外部から「与える」ものではなく、「一緒につくる」ものだと私は考えています。
なぜなら価値は、組織によっても、状況によっても変化するからです。「これが正解」という物差しを与えられることも多いでしょう。
年々引き継がれている評価マニュアルやKPIの項目は、簡単に変えることはできないかもしれません。しかしそれらを「ありき」であり「すべて」だと呑み込んでしまうのではなく、「ここでの本当の価値は何か」という問いをもって、それを関係者と一緒に見極めることこそ、評価の真髄だと思います。
以前、ある市の子育て支援制度の評価を見直しに関わったことがあります。
それまでは「子ども預かりサービスの利用者数」を最も重要な評価指標として、担当者はその数値を追いかけていました。数は、数えやすい。数字が多いと「子育て支援をこれだけしています!」と大らかに発信できます。でも、その場をよくよく観察して、利用者さんの話を聞いていると、「子ども預かりサービスの利用者数」は横ばいで推移していましたが、「登録者数」が着実に増加するという現象が起こっていました。
その状況を分析すると「利用に至らなくても、つながっていたい」という方々のニーズをしっかりとらえていて、預けなくても親同志のつながりづくりを求めていたり、ふとした相談や交流から生まれる安心感や信頼が着実に蓄積されていたのです。
私は行政の方にこう伝えました。
「測るべきは、利用者数ではなく、そこで生まれている『関わり』の広がりと深さではないでしょうか」。
現場の皆さんと行政の方々の話し合いの結果、数値目標は置いたまま、この「関わりの広がりと深まり」を捉える兆しの変化を評価の枠組みの中に入れることができました。
サービスの利用者数を追いかけることだけに集中することを辞めた瞬間、その場の「本当の価値」が、浮かび上がってきて、皆で語れるようになったのです。
「測れないから」という理由で、いちばん大切な価値がこぼれ落ちてしまうのは、非常にもったいないことです。
測りにくいものこそ、ていねいに扱いたい。評価とは、数値化ばかりが主導する社会において、こぼれ落ちがちな価値をもう一度すくい上げる営みでもあるのです。
これは、会社の経営にも関連することだと思っています。投資対効果を「いくら儲かったか(ROI:Return on Investment)」だけで測ると、お金に換算しにくい学びは、こぼれ落ちてしまいます。そこにもう一本、「期待にどれだけ向かっていけたか(ROE:Return on Expectation)」というものさしを添える。何を期待するかを話し合い、関係者で決めた「目指したい効果」にもう一度立ち返ってみる。
ものさしづくりは、実は「対話づくり」なんだ——現場で、私は何度もそう実感しています。
次回は、現場の何気ない日常からどのように“ものさし”を形づくっていくのか、その具体的な作法をお話しします。
第1回 連載開始にあたって:エグゼクティブアドバイザー・津崎たからさんをお迎えして
第2回 なぜ、人財育成の成果は「見えない」のか?
第3回 評価が教えてくれる、人を動かす「ものさし」の作り方(本記事)
▼Coming Soon
第4回 学びの9割は、現場にある。——毎日の何気ない仕事から、“ものさし”はつくれるのか?
第5回 現場の「見えにくい努力」を、言葉にすることから始めよう
第6回 津崎さん×SLH対談記事(前編)
第7回 津崎さん×SLH対談記事(後編)

津崎たから / Tsuzaki Takara
エグゼクティブアドバイザー
合同会社 TAKARA Standard 代表社員
「事業や組織の営みの本質的な価値とは何か」を問い続ける評価学の研究者・実践者。 米Macalester College卒、London School of Economics社会政策・NGOマネージメント修士号を取得。現在Western Michigan Universityの学際的評価学の博士課程に在籍し、世界基準で評価研究に従事。 20年以上にわたり、国連機関、金融機関、自治体、NPO、医療、社会福祉、国際協力等の分野で活動。国内外の査読付き論文・学会発表多数。2023年日本評価学会奨励賞受賞。
【参考文献】
Scriven, M. (1967). The methodology of evaluation. In Perspectives of Curriculum Evaluation (AERA Monograph Series 1). Rand McNally.
Scriven, M. (1980). The Logic of Evaluation. Edgepress.
Scriven, M. (1991). Evaluation Thesaurus (4th ed.). Sage.
Black, P., & Wiliam, D. (1998). Assessment and classroom learning. Assessment in Education, 5(1), 7–74.
Power, M. (1997). The Audit Society: Rituals of Verification. Oxford University Press.
Strathern, M. (1997). ‘Improving ratings’: audit in the British University system. European Review, 5(3), 305–321.
Guba, E. G., & Lincoln, Y. S. (1989). Fourth Generation Evaluation. Sage.
Kirkpatrick, J. D., & Kirkpatrick, W. K. (2016). Kirkpatrick’s Four Levels of Training Evaluation. ATD Press.
日本語でさらに学びたい方へ
佐々木亮 (2010)『評価論理:評価学の基礎』多賀出版.
安田節之 (2011)『プログラム評価:対人・コミュニティ援助の質を高めるために』新曜社.
三好皓一 編 (2008)『評価論を学ぶ人のために』世界思想社.
源由理子 編著 (2016)『参加型評価:改善と変革のための評価の実践』晃洋書房.
「研修は改善されたが、現場の行動変容や成果に繋がらない」「社員の自律的な学びや、上司の育成支援が進まない」。 そんな人材育成の壁に直面していませんか? 本講座は、不確実なビジネス環境下において、「職場そのものを学びの場に変える」ための新たなアプローチ、「WPL(ワークプレイスラーニング)」を習得するプログラムです。
企業内の人の成長に関することであれば、どのようなことでもお気軽にご相談ください。
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