インタビュー・対談

【ビジネスID講座〈航空業界編〉修了生インタビュー】 
#3 西日本空輸株式会社 櫻田様・大宅様

西日本空輸株式会社の櫻田様と大宅様は、ビジネスID講座での学びを活かし、訓練の現場に大きな変革をもたらそうとしています。
ノンテクニカルスキルを概念の理解にとどめず、具体的な行動評価として実務に紐づける工夫を行うとともに、従来の訓練体系を「時間基準」から「成果基準」へと転換させる挑戦を進めています。

 

本インタビューでは、お二人がどのようにして訓練の「解像度」を高め、組織的な意識変革と新たな人財育成戦略を推進しているのか。その実践プロセスと今後の展望についてお話を伺いました。

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受講者様プロフィール


西日本空輸株式会社
運航部 乗員訓練課 担当課長 機長

櫻田 貴洋さま

(ビジネスIDエキスパート認定/航空編第20期修了生)

 


西日本空輸株式会社
運航部 運航統制室 主任 機長

大宅 克俊さま

(ビジネスIDエキスパート認定/航空編第20期修了生)

 

【会社情報】

  • 会社名:西日本空輸株式会社
  • URL:https://www.nishiku.co.jp/
  • 所在地:福岡市東区大字奈多字小瀬抜1302-47
  • 従業員数:154名(2025年4月1日現在)
  • 事業内容:九州電力グループとしてヘリコプターによる電力サポート事業、ドクターヘリ、防災ヘリ、報道取材、航空測量等を行っており、受託整備・受託訓練も行う。
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ビジネスID講座受講のきっかけ

―ビジネスID講座を受講されたきっかけと、当初期待されていたことを教えてください

櫻田様 2025年2月に開催された「小型機セーフティーセミナー」に参加し、ビジネスID講座の存在を知りました。
長らく続いてきた従来の訓練体系を、今の若い世代の訓練生に合わせた形にアップデートしたいという強い思いがありました。熟練教官が持つ高度な技術や感覚を、飛行機会が限られる現在の環境でも効率的に習得できるよう、より体系的なプログラムに落とし込む必要があると感じていたためです。
また、評価体系のさらなるアップデートも目的の一つでした。従来から確立されているテクニカルスキルの評価に加え、これまで教官の経験則の中で語られることの多かった「ノンテクニカルスキル*」を明確な指標(コンピテンシー)として導入したいと考えました。
エアラインが導入しているような、客観的かつ体系的な評価育成システムへと変革し、指導者ごとの視点を統一することで、より質の高い教育を提供したい。そうした点が、ビジネスID講座を受講することで達成できるのではないかと期待し申し込みました。

※ノンテクニカルスキルとは 業務を遂行する際に必要な専門的な技術的スキルを補い,業務を安全かつ効率的に実施するために必要とされる認知的,社会的スキル

 

大宅様 私が担当しているCRM(Crew Resource Management)*訓練を、より発展させたいと思ったのがきっかけです。
日々CRM訓練を行う中で、現場の実務と訓練内容をどう紐づけるか、そして成果をどう評価すべきかという点に課題を感じていました。そんなときに小型機セーフティーセミナーに参加し、「ここなら解決の糸口が見つかるかもしれない」という期待を持ってビジネスID講座への参加を決めました。

エアラインの育成では、航空局の通達が出されたこともありCBTAプログラム*(Competency-Based Training and Assessment)やID(Instructional Design、以下ID)といった考え方がスタンダードになりつつあり、自分も概念自体は知っていたものの、それを実際の現場でどう運用・活用していけばよいのかまでは具体的にイメージできていませんでした。これらの知識を得て、CRM訓練の発展、特にノンテクニカルスキル(NTS)の適切な評価手法を確立したいという強い思いがありました。

※CRM(Crew Resource Management)とは 航空機の安全運航のために、人、機材、情報など、利用可能なすべてのリソース(資源)を有効活用する考え方のこと。パイロットの操縦技術(テクニカルスキル)とは異なり、コミュニケーションや状況認識、チームワークといった「ノンテクニカルスキル」を重視する訓練
※CBTA(コンピテンシーに基づく訓練・評価)とは従来の「飛行時間」や「回数」を基準にするのではなく、実際に業務を遂行する能力(コンピテンシー)を習得できたかどうかを基準に行う訓練・評価手法のこと。国際民間航空機関(ICAO)が推奨する、現代のパイロット育成のグローバルスタンダード

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ビジネスID講座で学んだこと

―講座を通して特に学んだこと、または印象に残ったこと、具体的な気づきについて教えてください

■「レシピ」による訓練の体系化

大宅様 最も印象に残った言葉は「レシピ」です。 IDには様々な理論があり、受講者のレベルや訓練のテーマに合わせて適切な「レシピ(理論)」を選び適用することで、どんな訓練でも効果的・効率的・魅力的なものにでき、再現性が高められることが大きな学びです。まるで、プロの料理人が使う詳細なレシピを手に入れたような感覚でした。手順と分量(理論)さえ間違えなければ、誰でも一定以上のクオリティの訓練が作れるようになるのです。
これまでの訓練も安全性や質は十分に担保されていましたし、大きな問題はもちろんありません。しかし、自分たちの勘や経験でやってきたことが体系化されており、状況に合ったレシピに従って設計することで、より成果につながる訓練が設計できる!という面白さがありました。
また、「レシピ」があると、自分ではない教官が訓練を実施しても、同じように実施できる、標準化できるという点が印象的でした。
以前自分で作った訓練を振り返ってみると、ID理論と合致している部分もあれば、足りない要素があったりして、「あ、この要素を入れておけばもっとよかったな」という気づきが多かったです。こんな科学的なアプローチがあるならば、もっと早くIDに出会いたかったです(笑)。

※画像はAIで生成したイメージを使用しています。

■訓練の「解像度を高める」視点の獲得

櫻田様 訓練設計において「解像度を高める」ことがいかに重要であるかを学びました。 これまでは「何を教えるか(HOW)」と「時間配分」に目を向けていました。
しかし講座を通して、まず受講者の「入口(現状の能力)」を分析し、どこまでできるようになってほしいかという「出口(到達目標)」を明確に定めることの重要性に気づきました。「現状と目標のギャップ」を言語化することで、訓練の全体像がくっきりと浮かび上がり、なぜ訓練をやるのか、何をどこまで習得させるのか、訓練の解像度が劇的に上がりました。
このあたりは、明記されていないことも多く、各教官によって認識に差が出ていた部分もあるかと思います。
上長に対しても「なぜこの訓練が必要で、どう成果が出るのか」を具体的に説明できるようになり、認識のすり合わせが容易になり、より具体的かつ建設的な検討ができるようになりました。

大宅様 私は、講座での「評価設計は具体的であるほど良い」という言葉が強く印象に残っています。
実際に、評価の具体的な設計(いつ、誰が、どの指標を使って、どのような状態なら合格とするか)を徹底的に行ってみました。すると、ゴールが明確になることが実感できました。
その結果、何をどのように習得するのか、プロセスも具体的になり、結果として訓練全体の「解像度」が上がることを実感しました。評価設計の具体化をすることで、誰もが納得できる基準を作ることができますし、評価のばらつきも減ることを期待しています。

■共通言語による協働

櫻田様 1人では気づけない改善点も、ビジネスID講座を受講した2人で話をすると、自然とIDという「共通言語」を用いて議論ができるようになりました。 「なんとなくこう思う」という感覚的な話ではなく、「IDの理論に照らすと、ここはこうすべきではないか」といった論理的で質の高い会話ができるようになったのは、組織として大きな収穫です。

 

大宅様 現場目線の細かい「実務的な視点」を持つ私と、広い「経営・管理的な視点」を持つ櫻田が、IDという共通の軸を持って助言し合う体制が非常に機能しました。 視点は違っても、向かうべきゴール(学習目標)が共有できているため、同じ方向でより深く考え、建設的な議論ができるようになったと実感しています。


※画像はAIで生成したイメージを使用しています。

 

4

ビジネスID講座受講後のアクション、得られた行動変容や手応え

―受講後、どのようなアクションを実行し、どのような行動変容や手応えを得ましたか

■「時間主義」から「成果主義(習得重視)」への転換

櫻田様 受講後、新しい免許を取得するための訓練企画書を作成し、上長へ提出しました。 以前は、過去の経験則をベースに必要な訓練時間を設定していました。
しかし今回は、必要なタスクを一つひとつ洗い出し、それぞれの習得に必要な時間を積み上げる形で算出しました。
その結果、「なぜこの時間が必要なのか」をデータに基づいてロジカルに説明できるようになり、上長ともスムーズに合意形成ができたことに大きな手応えを感じました。

大宅様 この訓練のゴールには、スキル面だけでも15項目程度の具体的な評価基準を設定しました。
これにより、従来はどうしても教官の主観や経験に頼りがちだった「安全に操作できているか」という判断基準を、「具体的な行動としてできているか」という客観的な指標へと進化させようとしています。
これは、単に「何時間乗ったから合格」とする「時間主義」から、「基準をクリアできたか」を重視する「習得ベース(成果主義)」への転換でもあります。個々の習得度に合わせて進められるため、早い段階でスキルを身につけた訓練生は、より効率的に訓練を修了できる道が開けます。


※画像はAIで生成したイメージを使用しています。

■適切なタイミングでの訓練投入

櫻田様 評価基準を「成果主義」に変えたことに伴い、訓練対象者の選定(エントリー)についても意識が大きく変わりました。
これまでは「入社〇年目だからそろそろ」といった年次や慣例を一律の基準にしていました。しかし、IDにおける「入口(現状)分析」の重要性を学び、年次だけではなく、個々の「実力(前提条件)」が整った最適なタイミングを見極める必要があると痛感しました。
準備が整っていない段階で無理に投入するのではなく、必要な能力が備わった状態で訓練を開始することで、訓練生は自信を持って課題に取り組めます。 結果として、挫折することなくスムーズな技能習得が可能になり、最終的な「合格率の向上」にも直結すると考えています。

 

5

今後の展望

―今後、貴社および業界全体でどのような展望を描いていますか

■社内展開と理解者育成

大宅様 今回得られたIDの考え方や設計手法を、全訓練に適用し、社内のスタンダードとして広めていきたいと考えています。
特に、訓練課の全員がBID講座を受講することで、チーム全体が「共通言語」で会話できる状態を目指したいです。

 

櫻田様 私も、訓練課のメンバーにはぜひサンライトヒューマンTDMCさんのBID講座を受けてほしいと考えています。私たちが社内で教える方法もありますが、外部の専門的な講座に参加することで、第三者である専門家から体系的に学ぶことができ、知識に対する客観性や納得感が高まると考えます。また、他社の受講生から多様な視点を学ぶことができます。
特に、先んじてCRMやCBTAを導入しているエアラインの方など、普段は交流の少ない他業界・他社の受講生とディスカッションできたことは、社内研修だけでは得られない大きな収穫でした。
将来的には、運航部だけでなく、営業や総務などの新入社員教育を担う担当者にもIDの手法を伝え、「社内コンサルタント」のような立場で、全社的な人材育成の質向上に貢献していきたいです。

■教官コンピテンシーの確立

大宅様 訓練設計&実施の質をさらに高めるためには、指導者である私たち教官自身が持つべき「教官コンピテンシー」を明確化する必要があると考えます。
経験則に頼るだけでなく、「今の自分には何が足りないのか」「次に何を目指すべきか」を客観的に把握できる仕組みを導入したいと考えています。
教官自身が常に学び、成長し続ける姿を見せることで、訓練を受ける若い世代がより明確な目標を持って、前向きに納得感を持って成長できる。そんな環境を提供し続けたいという願いがあります。

■小型機業界における共通指標(コンピテンシー)と発展

櫻田様 小型機業界では、他社からの業務や訓練を受託するケースが多くあります。 将来、業界内でコンピテンシーの概念が広まれば、受託先の基準(コンピテンシー)に合わせて最適な訓練プログラムを設計・提供できるようになります。
また、防災ヘリやドクターヘリなどの訓練においても、業界全体で「共通指標」が確立されれば、OJTの効率化や安全基準の標準化につながります。IDやCBTAが共通言語となることで、業界全体の安全性と連携のしやすさが底上げされる、そんな未来を描いています。

 

*SLHコンサルタントによるあとがき*

2018年に開講したビジネスID講座「航空業界編」。当初はエアラインの運航乗員部(パイロット)中心でしたが、近年は整備職や客室乗務員、そしてここ1年で西日本空輸様のような小型航空機「ジェネアビ」領域の受講者が急増しています。 防災や医療搬送など任務が多岐にわたり、単独運航も多いジェネアビ。その育成負担と難易度は想像に難くありません。 

しかし、現代にはかつてのような潤沢な育成時間はありません。「背中を見て覚えろ」といった、時間をかけた自然習得はもはや不可能。現場で課題となるのは、マニュアル化できない「ノンテクニカルスキル」です。これを意識的に「仕組み」として継承しなければ、組織力は衰退し、重大なエラーにもつながりかねません。

事実、ヒューマンエラーの多くはノンテクニカルスキルの不足に起因します。こうした状況を受け、2025年8月の法改正を経て、この12月からはジェネアビ等を含む全てのパイロットに対しCRM訓練が義務化されました。登録訓練機関制度も始まり、航空局の方からもCBTAプログラム導入により培った「ISD(インストラクショナル・システム・デザイン)を理解した上で、効果的な訓練を実施できる育成機関が増えることは心強い」と期待の声が聞かれています。

「見えにくいスキルを、いかに言語化し、科学的に育成するか」。 その武器となるのが、経験や勘のみに頼らず、教育を体系的に設計するISDです。 実際、西日本空輸様のシラバスは劇的に進化していました。熟練者の暗黙知がしっかりと「言語化・構造化」され、誰が教えても一定品質が担保される設計になっていたのです。 

「自分たちが感じていた課題を改善し、次世代により良い育成体系をつなげたい」。 単なる訓練改善に留まらず、未来を見据えて仕組み自体を変革しようとするお二人の熱意に、深く心を動かされました。その真摯な取り組みは、ジェネアビ業界全体の育成を進化させる大きなきっかけになると信じています。 


【インタビュアー】

篠田 梓
ラーニングプロセスコンサルタント
ビジネスID講座講師
製薬業界で営業、営業部門の教育研修の企画を経験する。その際にインストラクショナルデザイン(ID)を知り、その分野での経験や知識がなくても、科学的な知見に基づき教育は設計できることを体感する。成果につながる教育の展開を支援し、トレーナーや教育部門の価値を向上させたいと思い、2018年より本講座の運営に携わる。2020年よりファシリテーターとして、また受講生が気軽に相談できるチューターとしてこれまで500名の受講生の学びをサポートする。航空業界においてはCBTAプログラム導入支援のプロジェクト等に関わり、業界の背景や知識や踏まえた支援をしている。


 

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