コラム

【元教育部長ハヤカワの本音】
研修のゴールを適切に設定していますか?

過去2回のコラムではOff-JTの内容と現場のニーズを合わせるために必要な、研修の「現状分析」に触れてきました。今回は、もう一つの大切な要素である、研修の「ゴール設定」について、ハヤカワの実体験を取り上げながら重要性を解説します。

1

研修のゴール設定があいまいな状態とは?

行き先を定めないと、どこに向えばよいのか分からないというのは、ビジネスでは当たり前のことです。ビジネスだけではなく、人生設計においても重要です。

それにも関わらず、私が製薬会社で営業担当者であるMR(Medical Representatives:医薬情報担当者)の人材育成に携わった時、育成のゴールが不明瞭なことは明らかでした。今回も新人MR研修を振り返りながら、ゴール設定について考えていきたいと思います。

当時所属していた製薬会社では、5か月間という時間をかけて新人MR研修を行っていました。新人MRは製剤や病気、倫理や関連する法律などの幅広い知識や営業スキルを学びます。
研修終了後には営業現場へ配属され、ひとりで医師や薬剤師といった専門知識と現場経験が豊富な顧客を訪問し、情報提供と営業を同時に行います。
また、12月にはMR認定試験が行われ、新人MRは必ず合格することが求められていました。

私はまず、新人研修のパフォーマンスゴール(現場配属1年後のゴール)とトレーニングゴールを担当トレーナーに問いました。
担当トレーナーが設定していたゴールは次の通りです。

 

<パフォーマンスゴール>

  • (不合格者のみ)MR認定試験に合格する
    ※合格者の目指すゴールは設定していない

 

<トレーニングゴール>

  • MR 認定試験に合格する
    ※試験不合格の場合:翌年の受験前に補講を実施
  • 製品知識を身につける/営業話法を習得する/プレゼンテーションスキルを身につける
    ※基準点を下回った場合は営業所で上司から教育を受ける

 

この報告を受けて、次のような素朴な疑問が湧きました。

  • 新人MRは、この知識やスキルの状態で営業現場に行き、医師や薬剤師と話ができるのであろうか?
    現在、そしてこの先も自分たちに求められているレベルを理解したうえで、仕事に対する自信と幸福感を持ちながら、MR活動ができるのだろうか?
  • MRの上司(営業所長や支店長)は、配属されたMRのレベルに満足しているのであろうか?

そこで、同様の新人研修を受けた入社2〜4年目のMR とその上司(営業所長、支店長)に対して、現場配属後の感想や新人研修への要望などを調査することにしました。

 

2

ゴール設定があいまいな研修に参加した受講生と上司の本音

入社2~4年目のMRとその上司に調査した結果、次のような意見が集まりました。

入社2〜4年のMR

  • 製品知識や営業話法、プレゼンスキルなど研修で学びはしたが、顧客と話すためにはより学ぶ必要があった。
  • MR認定試験は営業活動で最低限必要な資格ではあったが、顧客からはさらに多くの知識レベルを求められたため、より知識の習得が必要であった。
  • 自分が想像していた新人MRのレベル感と実際に求められる役割に大きなギャップを感じ、苦戦していた。

 

MRの上司

  • 営業話法やプレゼンテーションスキルは、実践を想定し、自分自身の言葉で話せるようになるまで研修期間で練習させてほしい。
  • MR認定試験の合格レベルはMRとしてのスタートライン。配属後には医師等と話すことを想定して、製品関連の疾病や治療に関する最新の知識まで備えてほしい。
  • 各スキルが足りないことは多少仕方ないかもしれない。ただ、新人だからこそ社会人基礎力、特に仕事に失敗してもやり遂げるという気持ちと実行力は持っていてほしい。

この結果からも、MRが現場で苦労していること、営業所長や支店長も満足している状況ではないことがはっきりと分かりました。
つまり、新人研修のゴール設定は十分ではなかったのです。

 

3

研修のゴール設定を振り返ってみよう

インストラクショナルデザインで研修を設計する際にも、ビジネスゴールからブレイクダウンしてパフォーマンスゴール、トレーニングゴールを設定し、どこを目指すのかを明確にします(図1)。

この事例の研修では、ゴールを設定していること自体は良かったのですが、適切なゴールを設定できているのかを検証しなかったことで、大きなギャップを生んでしまいました。

 

図1. ゴールと評価をデザインする

 

皆さんの職場での、研修のゴールはどのように設定されていますでしょうか。

社員に求めるゴールを「ただ置いただけ」になっていませんか?
ゴールは社員本人、そして会社や現場が求めているものに合致しているか検証していますか?

正しいゴールが設定できているのか、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

元教育部長ハヤカワ
早川 勝夫

 


*参考ページ*

〉〉研修の成果をどう評価する?カークパトリックの4段階評価とは


◀◀【元教育部長ハヤカワの本音】研修の現状分析によって、何が変わるでしょうか?

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