インタビュー・対談

ビジネスID講座 修了生 インタビュー 【前編】
~全日本空輸株式会社様~

航空業界では、技術の進歩によりパイロットに求められる能力も変化し、2017年にCBTAプログラム導入に関する通達が国土交通省航空局より通知されました。BID講座≪航空業界編≫は、同プログラム導入において必要となるISD(Instructional Systems Design 以下ID)についての理解を深めることができる講座です。BID講座を受講した全日本空輸株式会社のパイロット訓練を担当されている皆様に、お話を伺いました。前編では、受講の経緯や得た学び、感想についてご紹介いたします。後編ではBIDを導入したことで得られたメリットについて伺いました。

目次

本連載の目次は以下です。

前編目次

  1. 背景
    ・本インタビューのご参加者
    ・CBTAプログラムとは?
  2. マネージャーへの質問
    ・組織全体でBID講座の受講を決めた経緯
  3. 受講メンバーへの質問
    ・抱えていた課題意識と講座に対する期待とは
    ・受講して得られたそれぞれの学び
    ・受講生自身の成長実感と次なるアクションへの思い
  4. 編集後記
1

背景

本インタビューのご参加者

全日本空輸株式会社

FOC 品質企画部 CBTAチーム・・・CBTAによる訓練・審査の企画運営を担う
和田様 城島様 駒﨑様 巻様 水野様 渡邉様

FOC 訓練事業推進部 学科訓練チーム・・・学科教官 学科の指導を担う
山川様 井上様

 

インタビュアー   サンライトヒューマンTDMC 森田 篠田

CBTAプログラムとは?

飛行機や運航方式が進化し、機材に起因する航空機事故は減少してきた一方、パイロットによるヒューマンエラーは減少率が低く、現在の航空機事故の最も大きな要因となっている。そこで、ヒューマンエラーを事故に繋げない為の訓練・審査手法として、コンピテンシー・ベースド・トレーニング&アセスメントプログラム(CBTAプログラム)が開発され、世界的には現代の訓練・審査の主流となりつつある。国⼟交通省航空局は、2017年3⽉に、日本国内の航空会社にもCBTAプログラムの採用を促す為に、通達「CBTA Program審査要領細則」を発行し、日本国内の航空会社においてもCBTAプログラムを選択できる環境を整えた。

2

マネージャーへの質問

組織全体でBID講座の受講を決めた経緯

総勢12名でクローズド型のBID講座を受講された全日本空輸株式会社の訓練担当の皆様。BID講座の受講を決断するまでの経緯をFOC 品質企画部 CBTAチーム マネージャーの城島様に伺いました。

―BID講座の受講を検討しはじめたきっかけを教えてください。

城島 航空業界でCBTAプログラムを導入することが決まってから、弊社でもIDについて独自で学んできました。しかし、自前で学ぶには課題や悩みもあり、もっとしっかりと運用していきたいと考えていました。

 

―どのような課題を抱えていたのでしょうか。

城島 1つ目は、訓練審査の規定等に関する専門知識はありましたが、訓練を組み立てる際の教育の方法論に関しての共通言語がないという課題がありました。我々の職場は特殊で、パイロットとスタッフが一緒に訓練を企画・実施しています。パイロットの方は、フライトに関してのKKD(勘・経験・度胸)を持っているのですが、我々スタッフはパイロットではないので、どうしても理解の差が生じ、上手く話しを進められないこともありました。また、スタッフでもバックグラウンドや経験量が異なる人の集まりなので、共通する言語が欲しいと考えていたのです。共通言語があれば、 組織的に強くなれるのではないかと期待していました。
2つ目は、しっくりきていなかった教育の評価(evaluation)設計の部分について、知りたい、もっとヒントを得たいという思いがありました。CBTAはデータ分析をして訓練のカリキュラムを改善することがベースとなっています。データはあるのですが、分析して評価する方法について、試行錯誤していました。

 

―BID講座のどのような点が受講の決め手になりましたか。

城島 私自身が、他社の講座も受けてみた上で、BID講座の方が自分たちの事例で設計し、学ぶことで日々の業務に活用しやすいと感じたことが決め手となりました。これまではIDを学ぼうとすると海外の講座しかありませんでした。そのため、英語での受講となり内容の理解に時間がかかったり、渡航費もかかっていました。また、講座内容はADDIEモデルの解説をベースとしており、IDの概要は掴めますが、日々の課題解決ができるまでに至りませんでした。特に、教育の評価(evaluation)設計、カークパトリックの4段階評価 の活用について学びたかったので、この点について深く学ぶことができそうなBID講座を選びました。

 

―一人や数名がオープン講座を受講するのではなく、組織全体でクローズド型講座の受講を選択された理由を教えてください。

城島 先ほど課題としてお話ししましたが、IDについて組織内で共通言語を持ちたかったというのが大きな理由です。一人ではなく集団で受講することで、広く、そして早く共通言語として浸透させることができると考えました。習っていないことについて共通言語化していくことは難しいですよね。でも、逆に習ってしまえば早い。現場でひたすら活用する環境を作っていけば、浸透させられると考えました。
オープン講座は、他社の方とお話をすることで、悩みや課題の共有ができたり、他社事例からヒントが得られるというメリットはありますよね。それに対して、クローズド型講座は、社内でBIDを実践できる環境が早く整います。そういう意味で、効果が大きいと思っています。導入初期はクローズド型で受講し、新任者が来た場合や追加で受講を検討する際にはオープン講座というように組み合わせで運用したいと考えています。

SLH 森田 オープン講座とクローズド講座のそれぞれのメリット・デメリットを比較し、一番良い形で講座をご活用いただき何よりです。今回は、「早く」共通言語を浸透させることが一番の目的と伺いましたが、達成できましたでしょうか。

城島 組織で早期に共通言語ができたことはもちろん、同時期に同じ課題に取り組むことで他者の理解にも繋がりました。全員で切磋琢磨しあいながら受講できたところも良かった点です。(詳しくは後編に記載しております。)

3

受講メンバーへの質問

抱えていた課題意識と講座に対する期待とは

続いて、受講メンバーに選ばれた皆様に、受講することが決まった時のお気持ちや講座に対して抱いていた期待について伺いました。

―BID講座を受講することが決まった時のお気持ちを教えてください。

渡邉 私は、品質企画部に在籍しており、乗員訓練のカリキュラムの作成、開発を担当しています。BID講座を受講するまでは、書籍を読みながらIDについて勉強していました。しかし、独学なので、学んだことが本当に正しいかどうかの答え合わせができませんでした。ですから、専門的な講習を受講させていただけることはとてもありがたいと思ったんです。予算の面から、自分から「受けさせてください」というのは難しいご時世ですしね。

水野 私は、正直なところ、「えっ、なにか大変な勉強をしなくてはならないの?」と少し身構えました。でも、すぐにありがたい機会だなと思い直しました。CBTAやIDという言葉は知ってはいたものの、内容について詳しく理解できているわけではなかったので、訓練企画時に活用できるさまざまなツールについて学ぶことができる機会は大変貴重だと思ったのです。

山川 私は、学科教官の中で、すでにパイロットやCAになっている方への、年1回の資格保持のための訓練を担当しています。ですから、受講の話を聞いたときは、「どうして私なんだろう」と思いました。そして、どんな内容の講座なのか調べました。
とはいえ、私は色々な方を対象とした訓練を担っているので、受訓生の中には学んだ内容をしっかりと実践する方もいれば、そうでない方もいます。常々、どうすれば魅力のある訓練にできるだろうかと頭を悩ませていたので、講座からそのヒントを見つけられるかもしれないとも思いました。せっかくならば、しっかりと学んで今後に活かしたいという気持ちになりました。

井上 IDという言葉は知っていたのですが、詳細は品質企画部の皆様が把握されて訓練を作り上げられていると考えていました。ですから、BID講座の受講の話を聞いたときは、「私がIDを学ぶことになるのか。どういうことをするのだろう?」とクエスチョンマークがついた状態でした。

駒﨑 私は工学部を卒業しています。「大学で学んだこととも、現在担っている運航という業務とも結びつかないような教育学を学ぶことになるのか」と最初は驚きました。しかし、訓練を担当する部署なので、きちんと知っておかなくてはいけないことだなとも思いました。

ANAの皆様

 

受講して得られたそれぞれの学び

BID講座を受講された皆様に、講座を通して得られた学びについて伺いました。

―講座を受講してどのような学びが得られましたか。

渡邉 実際に受講して、自分だけでは理解しきれていなかったことや、本質の部分を習得することができました。専門家の皆様からご教授いただくことで、自分自身の捉え方、理解の仕方を正しく矯正できる良い機会になりました。

 私は、2年間ほどCBTAの業務をした上で、BID講座を受講しました。これまでは、本を読んだりネットで検索したりと独自で学んでいました。しかし、ネットで検索して得た情報は、本当に正しいものなのかよくわからず、さらにポイントも掴みにくいものでした。そのため、ある意味で都合よく、自分なりに解釈しており、自己学習の限界を感じていました。
講座を受講することで、今までなんとなく理解し、なんとなく業務に落とし込んでいたIDについては、「どうやら解釈は合っていたらしい」、「これはもっと深い意味があったんだ!」というように理解が深まりました。
SLHさんは、航空業界以外に対してもIDを教えられていますよね。IDのプロの方が伝える内容により、正しい理解・解釈につながったと思います。これが他者から学ぶ価値だなと思いました。

駒﨑 講座を通して、さまざまな知識や技術が身につきました。特に、最新の学校教育のコンテンツを学んだことが印象に残っており、私たちが教材を作る際の参考にしています。
また、入口・出口の話については、これまで私たちが考えていたことの答え合わせができました。私たちも、エントリーレベルはこのくらいで、試験に合格することが出口と考えて、そのギャップを埋めるための方法を考えていました。講座では、そうしたことに対する理解を深めていくための題材をずいぶん提供していただきました。

SLH 篠田 オープン講座では機密情報の観点もあり、深いディスカッションが難しい点もありますが、クローズド型では、育成の年間計画をコンサルティングをしながら、各受講者様の企画事例を深掘りし、最適な研修設計のサポートが可能になります。そのため今回は、全員でパイロットの育成のフロー図を描きながら、パイロットの出入口を改めて確認した上で、それぞれの受講者が設計する訓練のゴールや評価設計を考えました。私達も皆様の背景や課題の詳細をお伺いすることで適切なアドバイスが可能となります。こうした点が更に理解度を高めることにつながっているかもしれません。

受講生自身の成長実感と次なるアクションへの思い

自分自身の行動に変化があったというご意見もありました。

―BID講座の受講後に起きた変化やご感想があれば教えてください。

和田 私自身が経験学習モデルのサイクルをより高度に回せるようになりました。経験を振り返り、マイセオリーにして、自分の職場で活かすことを意識的に実践しています。自分の中で「このやり方に変えてみようかな」と考えて、試行錯誤する中で、しっくりくる瞬間を見つけることができるようになったと感じます。
熟練度が増すほど、そういった考え方で訓練や教育をしていくことが重要ですよね。行動主義的なところから構成主義的なところへシフトしていく。その人の概念を変えて、品質を上げていく。その意味では、対象者の背景に基づいて、今後の訓練を設計していく必要性を強く感じました。これはまさに講座から教わった考え方です。

経験学習モデル

経験学習モデル

駒﨑 私は、講座を通して、根拠を持って順序立てて他者に説明するスキルを身につけられたと感じています。講座の中で、「人に教えられるようになって初めて一人前」という話を聞きました。私自身の理解だけでなく、「IDはこういう考え方で、こういう手順で訓練を設計する」ということを、周りの人にも共有できるようになりました。

渡邉 企画段階だけでなく、そもそも私自身の考え方に変化がありました。ゴールや目的をしっかり意識し、本当に必要なことは何かを考えることで、これまで何となく行っていたことをそぎ落とせるようになりました。普段の行動も変わりつつあり、これはとても大きな成果だと思います。
先月、プレゼンテーションをする機会があったのですが、与えられた時間内で、いかに伝えたことを理解してもらえるかという視点で資料作成をすることができました。情報を整理するスキルが研ぎ澄まされていっている感覚があります。

城島 BID講座の内容の半分くらいは、教育だけでなく普通の仕事でも活用できるエッセンスですよね。

 

SLH 森田 城島さんがおっしゃるように通常業務に活用できる点が沢山あります。BIDの考え方そのものが、出入口とそのGapを考えることなので、日頃から戦略的思考が習慣化されますし、またDay3には発表会があるので、プレゼンテーションスキルを身に付ける良き機会になります。教官やトレーナーの皆様は研修のコンテンツのプレゼンは慣れているかと思いますが、「企画」のプレゼンになると、第三者に自分の訓練や研修についてわかりやすく語る必要があるので難易度が上がります。そこにトライしていただくことで、プレゼンのスキルがもう一段階上がるのではないかと考えております。また、講座を受講しながら私達のファシリをご体感いただき、ファシリテーションスキルを学ぶことができた!というご感想を良く頂戴します。

編集後記

SLH 篠田 BID講座では、コンピテンシーに基づきトレーニングゴールを達成できていることは確認できていますが、実はパフォーマンスゴールを達成しているかどうかは、なかなか確認が難しいのです。しかし、今回のインタビューを通して、学んだことをどのように実務に活かしているかをお伺いでき、訓練の設計はもちろんのこと、プレゼンのスキルや戦略思考など多くの学びを実践していただけていることを知り、私達にとってのレベル3が達成できていることが確認できました!貴重な機会をいただけたこと改めて感謝しております。インタビューにご協力いただきありがとうございました!!

企業内教育のグランドデザイン

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▶▶▶ 後編はこちらです。

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