コラム

【ワークプレイスラーニングを考える】
第9回 「学び続ける力」の育て方
~成長実感と環境がつくる学習志向~

誰もが一度は「もっと成長したい」と思います。しかし、その思いが行動や変化につながらないことも多いのではないでしょうか。
学び続けるために必要なのは、意志の強さだけではなく、小さな目標を積み重ね、気づきを得ながら前に進むこと。そして、周囲と共に学ぶ環境を育てていくこと。
今回は、そんな「学習志向」を高めるための視点と工夫について考えます。

1

個人の学習志向が高まる時

■朝日に向かって走る理由

私は朝日に向かってジョギングするのが好きです。大きな希望(太陽)に向かって一歩一歩進んでいる感じがするからです。
月に1回、20km走ることがありますが、私にとっては決して楽な距離ではありません。

ただし、昇っていく太陽ばかりを見ていては走り続けることはできません。目指す先が大きすぎて、いつ到着するのか不安になるからです。
伏し目がちに足運びを確認しながらも、頭を少し上げて、少し先に見える目標物を見つけて走ります。

いくつもの目標物を通り過ぎ、ふと後ろを振り返ると、自分が随分と長い距離を走ってきたことがわかります。「もう少しだ」と思うことで、ゴールに辿り着くことができるのです。

それぞれの区間で速かったり遅かったり、苦しかったり楽だったりと、さまざまな気づきがあり、そのたびに自分が成長できたように感じます。

■「より良くなりたい」という気持ちの正体

「より良くなりたい」「成長したい」と思う方は多くいると思います。
いくつもの経験を通して学び続ける「経験学習」において、これは重要なマインドセットです。この思いを、私は「学習志向」と呼んでいます。

研究によれば、この志向が高い人は、自分を俯瞰するメタ認知能力(自分をどのように考えているかを認識する力)が高くなるとされています。したがって、自然と批判的内省に向かいやすくなるのです。
前号(第8回)を覚えていらっしゃるでしょうか。質の高い教訓を導き出すことができるのです。

2

学習志向を高める方法とは?

■目標設定の重要性

では、学習志向を高めるにはどうすればよいのでしょうか。
松尾先生によると、鍵となるのは「明確な目標設定」です。
「より良くなりたい」「成長したい」という漠然とした思いを、成長実感が味わえる具体的な目標に落とし込み、成長の過程ごとに目標を更新していくことが肝要であるといいます。i)
目標の軸は2つ。成長目標と学習目標です。

  • 成長目標(どうありたいか)
  • 学習目標(何を学びたいか)

それぞれに、「やりたい目標」「できる目標」「しなければならない(期待される)目標」といった視点を加えると良いでしょう。これらをうまく組み合わせて設定することをおすすめします。

ただし、成果や到達点に目を奪われすぎて、学び・成長する過程を軽視してしまうと、学習志向が高まらない点には注意が必要です。

i) 松尾睦 『仕事のアンラーニング』同文舘出版, 2021

■「届きそうな目標」が意欲を育てる

私は毎年お正月に「自分はどうなりたいか」という目標を掲げるようにしていますが、目標と実態があまりにもかけ離れていると、途中で頓挫してしまうことがあります。
成長の実感を伴わないと、学習意欲が低下してしまうのです。

私のジョギングのように、少し頑張れば手が届きそうな目標を一つずつ立て、成長実感を積み重ねることで、大きな自信に近づいていきます。

「わかるようになった」「できるようになった」といった成長の過程を自覚することが大切です。
そしてそのことが、次の学習意欲を高め、学習志向をさらに強めるのです。

3

学びを支える組織とリーダーの役割

■学びを支える職場環境

学習志向を高めるには、職場環境も大切です。
『チームが機能するとはどういうことか』という本には、学びが進んでいる職場では休憩時間にも仕事の話が出てくると紹介されていました。ii)
ぶつかって解決した問題のことや、現在も助けを必要としている問題について語り合うというのです。

私も製造現場で似たような経験をしたことがあります。
チーム一丸となって問題解決に取り組んでいたときには、休憩も忘れて「こうだった」「ああすればよかった」と活発な話し合いが行われていました。
一方で別の現場では、問題が起こった後の休憩時間には沈黙が支配し、どんな話題を振っても前向きな雰囲気に変えるのに苦労しました。

周囲に学ぼうとする人が多い環境では、自分も自然と触発されて学びたいという気持ちになります。
図書館で周りの人が熱心に勉強している姿を見て、自分も勉強したくなった経験がある方も多いのではないでしょうか。

ii)エイミー・C・エドモンドソン 『チームが機能するとはどういうことか』英治出版, 2014

■学ぶ組織づくりがこれからのリーダーの役割

前述の本によれば、集団的に学習が行われている職場では、以下のような行動が個人に現れると述べられています。

  • 質問する
  • 情報を共有する
  • 支援を求める
  • 未検証の行動を試す
  • 失敗について語る
  • 意見を求める

そして、これからのリーダーには、組織が学習しながら実行できるよう、「学ぶ組織づくり」を進める役割が求められているのです。

さて、皆さんの職場はいかがでしょうか。学びの風は吹いているでしょうか。

*次回予告*

次回は、「学習志向」で設定した目標を「積極的行動」へとつなげる場づくりについて考えていきます。

ワークプレイスラーニングコラムニスト
山道 弘信


◀◀【連載第8回】振り返っているのに、なんだか成長実感がない?

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