コラム

真に経営戦略と人財育成がつながった状態とは?

2022年の秋物語では「人財開発バリューチェーン」という考え方をご紹介させていただき、ご参加の皆さまより大きな反響を頂きました(イベントレポートはこちら)。

今回の記事はある事例を人財開発バリューチェーン(ワークフォーススコアカード)で紐解きつつ、これからの人財育成担当者が取り組む課題(与えられたチャンス)について提言した内容です。

経営戦略と人財育成はつながっているか?

人に投資を!

人的資本経営へ舵が切られる中、我々が担っている人財開発、人財育成は、まさにど真ん中のテーマ。2022年の秋物語では、真のパフォーマンスが発揮される人づくりや環境づくりはどうあるべきか、経営戦略と人財育成の紐づけを探っていく事をテーマとした。

冒頭、「経営戦略と人財育成が繋がっているか?」と参加者の現状認識を聞かせてもらった。伊藤レポートが、経営戦略に連動した人材戦略でなければならないという課題感を経営陣に突きつける中で、こと人材育成については、会場の6割以上が「(既に)繋がっている」と答えている。ここに参加する多くの方達が、ビジネスゴールから学びを設計する「ID(インストラクショナルデザイン)」になんらかの形で関わってきていて、ご自身が経営戦略に繋げる意識を持って、人財育成を設計しているからだろうか。いやそれよりも、経営戦略に繋がった人財が育っている事を肌で感じとっているからなのか。質問の「繋がる」という状態をどう捉えたかによって違いはあるものの、多くの参加者の人財育成に対する視座は既に高く、自信に満ちている状態であった。

みなさんの組織ではどうだろうか?

人的資本経営が叫ばれる背景となったVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を伴った予測不可能な状況)の時代。そんな時代に求められているのは、いかに変化を起こしていくかという「変化への対応力」を持った人財開発・育成ではないだろうか。これまでのように、既存ビジネスモデルの中で、経営から与えられた所与の要件を満たす人材を作りあげて満足するだけではなく、ダイナミックに変化していく経営環境に対応して、それぞれのworkplaceで自律的に考え・学び、行動を起こし、組織に影響を与える人財。これこそが、“真に組織にパフォーマンスをもたらし続ける人財”になるのではないだろうか。

どうやったら、そういう人財を開発、育成できると言えるのか?

workplaceを重視した学びと成長の機会を

鈴木克明教授は、経営に寄与する人財開発をストーリーとして語れる事が重要だという。それが、「人財開発バリューチェーン」である。これは、従来の人事施策(HRスコアカード)に、育成と成長の視点(ワークフォーススコアカード)を加えた人財開発が、組織の経営価値(バランススコアカード)に繋がっていくというストーリーだ。

そして、育成と成長の視点(ワークフォーススコアカード)では、①社員の成功(成長)が定義づけられており、②職務をしっかり遂行するためのコンピテンシーが身に付いていて、③目標に向けた行動変容を促すマネジメントが組織として行われており、④これらを促すマインドセットと組織文化が醸成されていることが必要であると。

ワークフォーススコアカードは、育成・成長をダイナミックなプロセスとして捉え、workplaceを重視した学びと成長の場の設計図を要求している。ここでは、育成部門の役割がより広く、より大きくなる事が期待されている。育成部門は推進役となり、ワークフォーススコアカードに照らし、社員の成功の為に何ができるかを俯瞰して人財開発について戦略を練る。workplaceに沿ったモデルをデザインしてKPIを定め、各部門のマネジメントと歩調を合わせながら育成をサポートしていく事が求められている。

鈴木克明著『研修設計マニュアル』を基にサンライトヒューマンTDMCが作成

ワークフォーススコアカードによる事例の振り返り

ワークフォーススコアカードの視点で、秋物語でご発表いただいた企業の事例を振り返ってみよう。

A社のサービス部門が、経営戦略から、ありたい人物像、育成へと落とし込み、教育訓練をBIDで進化させた事例を取り上げてみたい。ワークフォーススコアカード4つの全ての要素が組み合わさり、“真に組織にパフォーマンスをもたらし続ける人財”を作りだすストーリーが語れる良い例だ。

部門長はまず、会社のパーパスと重ね合わせて、接客担当としての行動基準をメンバーが自ら作るプロジェクトを始動させた。組織の戦略を理解し受容する文化、社員のマインドセットの醸成を仕掛け(④)、ゴールである「ありたい人物像=社員の成功(成長)の姿」を設定させた(①)のである。自分達で打ち立てた行動基準であるからこそ、経営と繋がる実感を伴い、使命感を持ったものになったと思われる。

そして、“ありたい人物像”に向けて、BIDによる教育訓練の進化が始まった。

まずは、「教え方」の改革に焦点があてられる。 教える側を「トレーナー」と新たに命名し、“厳しい先生”から“育成の伴走者”への意識改革をした。意識付けや理解を深めるために多くのコミュニケーションがなされたことは想像に難くない。ここでも「マインドセットの醸成(④)」が大事にされている。
※それまでは、教える側の呼び方として「先生」を連想させる表現が用いられていた。

次に、「社員のコンピテンシーの設定(②)」だ。社員のありたい姿から彼ら彼女らに必要なコンピテンシーに落とし込んだ。また、自律的に学べる環境を整備しただけではなく、トレーナー側にも新たなコンピテンシーを策定した。

仕上げは、「目標に向けた行動変容を起こすマネジメント(③)」である。トレーナーに対しては実施したトレーニングの評価を、学習者に対しては現場での行動変容の評価を組み込み、それぞれの行動をフィードバックする仕組みを織り込んだ。

部門長のリーダーシップによるマインドセットの仕掛けとBIDのフレームワークで設計された訓練が一体となって、workplaceで輝きを放った人財育成の物語であった。

我々に託された課題

秋物語の事例を振り返った上で、あらためて皆さんに、「経営戦略と人財育成は繋がっているか」と投げかけてみたい。

BIDを軸に育成を設計すれば、経営戦略と“紐づいた”設計になるだろう。しかしながら、どの程度具体的に“紐づいた”と言えるかというと、そこにはバラつきがあるのではないだろうか。A社のように、人財開発バリューチェーンのワークフォーススコアカードにのって、社員の成功(成長)を捉え直した上で、組織をダイナミックに動かして、人財の成長につなげる道筋が設計されているかと言えば、まだそうとは言いきれないケースもあるのではないかと思う。

動的に動く組織や事業の中で、ある局面(この領域での、この期間での、与えられた経営戦略の中で)の育成(人物像)を切り取った静的、限定的なものになっていないだろうか。変化を求められるVUCAの時代、中長期的な視点で、動的にBIDを進化させる試みが必要ではないかと思うのである。
それは、「育成」に留まらず「成長」という概念をより色濃く取り入れる事かと思う。組織の成長軸と人の成長軸が動的に交わるところ、それが“真に組織にパフォーマンスをもたらし続ける人財”の姿ではないだろうか。

皆さんと一緒に考えていければと思う。人的資本経営のど真ん中で、「人づくり」を担う育成担当部門の皆さんにとって大きなチャンスとなる時代が到来したのだと思う。

 

※サンライトヒューマンTDMCでは、組織で活躍する人を大切にしたいという想いから、人財に「財」の文字を使用しています。本レポートでは弊社の考えや提案内容については「人財」の表記を基本としていますが、著作物からの引用や複数の企業様の考えとして表記する場合は「人材」を用いています。

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